マンガ「スライム倒して300年」こそ、大人のための異世界転生だ!

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「スライム倒して300年」といったけど、正式名称はこう。
「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」
タイトルから薄々わかるとは思うけど…原作は【小説家になろう】というサイトから出てきた、異世界転生ラノベ。

 

ただ…絵もかわいいし、設定やキャラの描き方が素晴らしく、何よりも「むしろ、子どもよりも20代半ばを過ぎた大人の方が共感できそうなストーリー」なので、この作品を紹介したい。

このゆるい絵柄、いいでしょ。

「こういうのを読みたかった!」とアラサーが歓喜する異世界転生ファンタジー

…というのもね、この作品は実質的には「ドロップアウト後のスローライフを描いた作品」なんだよ。

普通、よくある異世界転生作品って、現実でダメだったやつがゲームの世界ではチートできてうまくいく…みたいな内容で、ティーンが主人公・ティーンの中でもだらけたやつが主人公…という主人公に全然共感できない作品・強くなったら全然共感できない作品だったりするんだけど…この作品はその辺が大人。

現実問題…東大に進学しようが、その後大手企業に入ろうが、それで幸せかと言うと…違うじゃん。俺TUEEEになるかもしれないけど多忙で大変で…強い=幸せではないじゃん?
幸せにはなりやすいけど、強くなれば解決するように描かれるフィクションって薄っぺらいじゃん?

これが、プロスポーツ選手だろうが、モテモテの芸能人になろうが多忙さや不自由さはつきまとうから「好きなことできてる幸せはあるけど、維持する大変さや、何かにつけて嫉妬されることで疲れる」のが…俺TUEEE的な人生の宿命じゃん。

 

だから、ぼくは、異世界転生ラノベというジャンルは…基本嫌い。
美味しんぼとかによく出てくる「本当に美味しいものだけで作れば、美味しい料理が作れるけど、たいていはまずいもので作ってしまうからあまり可能性を感じない」という料理のように異世界転生ラノベを感じてしまう。
美味しんぼでは冷やし中華やハンバーガーなんかがそういうふうに紹介されているけどね。

その辺のこどもっぽさというか、安易にテンプレートに当てはめて逃げ切ろうとする発想で作品を作ってないところにすごく好感が持てた。

 

さっきも言ったけど、主人公は大人。
それも一度、ブラック企業で過労死してしまうほど現実で辛い思いをした大人。

 

過労死して、異世界に転生。
その後、不老不死と住居が用意されていて、そこからセカンドライフを始める。

人間って不思議なもんで、がんばってる・苦労してるストーリーが見える相手には「その人には幸せになってほしい」という前向きな気持ちで見守れる。
だから、これから「チート」になる異世界転生作品って、現実ですごく苦労してたり、努力の末に…的なことを描かれたほうが共感を呼ぶと思うが…こうなってる作品の方が少ない。

しかも、今回の場合はアラサーの人が共感できる「仕事だらけの辛い現実から、異世界でスローライフ」という話だから「いい話だなぁ〜」と読める。

しかも、スローライフからぶれないあずささんがすごくいい。
知らぬ間にレベルMAXになったことを知らされても、強さを誇示することよりもスローライフ最優先。

強くなることや頼られることよりも、スローライフが崩壊する日常の方がいや…という、いい意味でぶれないキャラになってるから
「そうだよね、一度アホみたいにこき使われた経験をしたら、人間そうなるよね」
というラインをきちっとなぞれているところが、素晴らしい!!

その後仲間ができたり、頼ってくる人は出てくるんだけど…このスタンスは崩さないで、がんばりすぎる人も戒めるし、自分もがんばりすぎない。

人間、こういうふうになるのよね…。

 

少し自分の話をさせてもらうと…ぼくは自分がブラック企業での過労がたたって躁うつ病を患った。それからというもの、相手の健康が心配になることが増えた。

・目の下にくまができているコンビニの店員がが気になりだしたり、
・深夜にTwitterをしてた時に、すごくリプライを返してくれるフォロワーさんに「体内時計狂ってない?大丈夫??」と心配になってしまったり、
・「明日の朝メールを見てくれたらいいや」と思うメールが深夜に返事が来ていると、「この会社、いよいよヤバイぞ」とおっかなびっくりしたり…

危機管理能力が上がった結果として、相手の生活環境が細かく気になるようになった。

こういう感情って、アラサーまでに苦労をした経験・精神を病んだ経験がある人なら当たり前にあるものだと思うのだが…これをきちっと描き出してきた作者さんは頭がいいと思った。

同時に、重い話になりすぎないように軽やかなイラストで描いているマンガ家さんには
「そうなんだよ〜重い話だからこそ、カジュアルに表現してくれる作家さんが必要なんだ」
と、とても納得したし、安心して読めた。

 

だからこそ、この作品は異世界転生ラノベと聞くと、食あたりを起こすような人にも読んでほしい。これはすごくいい作品だから。

ラノベを書くには賢すぎる原作者が、バカバカしい異世界転生ラノべに挑戦して覚醒した!!

異世界転生作品・小説家になろう出身の作家にはプロとは到底呼べない大ハズレが多い。
しかし、この作者はプロ。それもキャリア10年のプロ。

実際、2008年に「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート (MF文庫J)」という作品でデビューしてる。

すごいのは、この時に組んだイラストレーターさん。
「ラノベは絵」なんていうから、著名または画力の高いイラストレーターさんと組むほど、出版社側が作者をどの程度本気で売り出そうとしているかが伺える

ライトノベルのイラストレーターとしては「狼と香辛料」、イラストレーターとしては音声読み上げVOCALOID「結月ゆかり」のデザインを手がけた人として有名。 (他にも伊東ライフとコンビ組んだこともあります。)

その後も、誰もが知ってる大ヒットこそないものの、コンスタントにライトノベル作家を続けて、6巻ぐらい続くシリーズをいくつか手がける。

しかも、学歴がすごくて、出身が京都大学(しかも中退とはいえ大学院も進んでる)。
…と、モノが違う人が「小説家になろう」に来た途端に、もとからあった才能を開花させることになる。

 

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頭が良すぎる人と、会議が苦手な人は作家として考えすぎるからこそ「テンプレ」を利用しての作品作りはバカにできない

この作品のWeb版の1話が出るところから、商業化されるまでわずか半年しかないから
「仕込みでは?」
「もともと出版する予定だったのでは?」
といわれがちだけど…ぼくはその意見には反対。

出版社に対してツテがあったり、企画を通すための売り込み方をわかっていたから、連載から半年で出版できただけであって、別に、「出版ありきの連載」だったかと言われると微妙なところだ。

 

というのも…この作者はもともと、ミステリー系の作品とか、青春モノっぽい作品を書くラノベ作家の中でも硬派な部類の作家さん。
だから、大売れもしないけど、コアなファンと高評価のレビューがちらほら…という、ライトノベルが好きじゃないと知らないようなタイプのラノベを書くラノベ作家さんでしかなかった。

 

それが、異世界転生ラノベのバカバカしいルールに則してラノベを書くことで、見事に新しい作風を開花させた。
マンガ家さんって、こういう「あるきっかけから才能が開花」「能力が高いけど、伸び切るために、取捨選択を迫られた」というパターンがけっこうある。

 

有名所でいうと、BLACK LAGOONの広江礼威とかがコレに近いのかな?
広江礼威さんってBLACK LAGOON以前には大きなヒットはなく…それどころか、不運とか不人気とか色々あって打ち切りばっかり。

で、BLACK LAGOONは、もともとミリオタ・映画オタだった作者が、その部分だけを詰め込んで作ったような作品で大ブレイク。
それ以前の作品だと、考古学とかクトゥルフとかこれも作者の趣味ではあったものの、難しくとっつきにくい分野が絡まってて人気が出なかったから…BLACK LAGOONではわかりやすいところ以外はごっそり排除して飛躍的な成功をしてる。

 

最近だと、ネット発の「やれたかも委員会」の吉田貴司とかも近いかな
打ち合わせや会議で作品が潰れていく、自分を表現できなくなっていくことで、ダメになっていくタイプの作者だったから「打ち合わせしないぞ!」と決めてネットに作品を出した途端に大ヒット。

 

そして、この作品の作画担当チバユウスケさんもこのパターン。。
原作者は「難しい物語を作り込めるけど、大ウケするようなわかりやすい話を作れない」ことが問題だった。
一方、作画担当のチバユウスケさんは、逆に絵はいいのにお話で伸び切らなくて、数々の連載を打ち切りにしてしまっている過去をある。

 

プロになって、話題作を作るような人だから、ここに名前が挙がってる人は全員すごい人だよ?
でも、誰もが知ってる大ヒット、自分史上最高の人気作品を作るためには何かを大きく変えたり、苦手を克服してくれる相手とのタッグが大事なんだね。

もちろん、単に苦手を克服してくれる誰かを待ってるだけじゃなくて、自分の得意分野をきちっとやれる人にこそ、そういう人が現れる…という話だけど。

 

この辺のところまで知った上で、マンガを読んでもらえると、
・テンプレートでありがちな設定の中の細かい微調整された面白さ
・文章にするとややこしそうな大人ならではの事情をサクサク読みやすくしてくれるマンガの技術
がより鮮明に見えてくると思います。

 

そのへんも踏まえて、「また異世界転生ラノベ!?もうお腹いっぱいだよ」と、食傷気味な人も手にとってほしい。
精一杯やって異世界転生ラノベの人じゃなくて、ミステリーや青春ドラマも描ける人が、わかりやすくするために、異世界転生ラノベにスケールダウンしてるから、ぜんぜん違うものが読めるかと思います。

 

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