「ガッチャマンクラウズインサイト5話」が小泉郵政解散以降の選挙情勢を20分に圧縮してた!

アニメの中の選挙だと思えないほどの傑作だったので、解説しつつ、名シーンをまとめる。

なぜ、アニメでは直接民主主義制にしたのか?

まずは、簡単なあらすじを説明したい。

これはクラウズという【役にも立つが、悪用もされると手に負えない未知の力】をスマホのボタン1つで呼び出せるようになった世界での話。

クラウズを他人に配ることができるのは二人。

一人は人々が人助けに参加することで「世の中をもっと良くしていきたい」「途中で悪用されることがあってもそれを乗り越えていかないといけない」と考える改革主義者にして理想主義者の爾乃美家累(にのみやるい)。

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ガッチャマン クラウズ インサイトより

もう一人がるいに反対して、「人はおろかだから、そんな危険なものは持たせてはいけない」と考えて敢えてクラウズを悪用することで抗議した鈴木理詰夢(りずむ)

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同上

りずむは事件を起こし、逮捕された。

これを機に、クラウズへの人々の認識が「一度暴走したら甚大な被害を及ぼす危険な存在」という見方に変わってしまう。一時は期待され、時の政権はクラウズの普及を推進するほどだったのに。…それはまるで、かつては夢のエネルギーとまで言われたのに、1つの事故をきっかけに大規模デモが起こるほどの嫌われ者になってしまった原子力発電所のように

そこで、4話でクラウズの利用を推し進めてきた時の菅山総理が「賛成か反対かの信を問う」とどっかの郵政解散した総理大臣や、どっかの都構想について住民投票までさせた大都市の市長さんみたいなことをした

しかし、現実とこのアニメの大きな違いが2つ。

1つは代議制ではなくスマホ投票による直接民主主義であること。

もう1つは「テレビ出演しているほど有名な宇宙人が二人いる。しかも、彼らでも選挙に立候補できる」ことだ

そして、宇宙人二人のうち、一人が立候補する。

彼の名前はゲルサドラ。4話で姿が変わってしまったから画像は載せないが、「みんなの願いを叶えてあげたい」という素直な(悪く言えばポピュリズムっぽくて信念がない)宇宙人である。

 実際の日本にも「宇宙人総理」と呼ばれた人がいる

はっきりしているのはゲルサドラは鳩山由紀夫元首相みたいな役を演じていること。

鳩山由紀夫さんにも宇宙人というあだ名があり、かぶせたものだ。

ちなみに、この「宇宙人」というあだ名は2001年からある。「宇宙人に似てる」と言われ、イメージグッズまで出て、2010年にも菅首相(当時)がこのネタで鳩山氏をいじるワンシーンがある。ネットスラングではないかなり周知されたネタだ。

参照:鳩山由紀夫 – Wikipedia

ちなみに、その鳩山氏みたいな役割のゲルサドラはテレビ上でいの一番に言った公約が

「クラウズを全面的に廃止します。」

とできるできない問題をそっちのけで【みんながそれを望んでいるから】という理由だけで、公約に掲げている

鳩山氏は知らないけど、ゲルサドラについて言えば他人のその時の心を可視化できるため、嘘は言ってない。「みんなが望んでる。だからしたい」という率直な気持ちを述べているだけ。

Aパートでは、クラウズを配布したいと考えている累とこんなやりとりをしてる。

累「ゲルサドラくん、クラウズを廃止するってどういう意味かな?」

ゲルサドラ「僕はみんなの願いを聞き入れただけです。望みを叶えれば、みんな幸せになれますよね」

…いい人っぽく聞こえるけど、こうしたいという信念も責任感もない言い方をしてる。顔も顔でこんな感じ。

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ちなみに、これは鳩山由紀夫政権でも「普天間基地移設問題」という似たような問題があり、「沖縄の人達や連立する社民党が反対しているから」と言って公約を掲げたものの代案を用意する実務能力も、回りを引っ張るリーダーシップもなく、この一件が原因で連立する社民党から、えんがちょされる。

さらに、ゲルサドラに対抗して立ち上がったもう一人の宇宙人も立候補してすぐの公約はこうだ。

「子どもは宝だ!私が首相になったあかつきには保育や育児環境の改善に尽力することを約束しよう」

と言ってる。…子ども手当だよね?百歩譲っても、本当に問題が存在するのか、いつまで改善しないのかよくわかんない「待機児童をなくします」公約に近いよね?

ちなみに、待機児童問題は調べたらなんと60年代から存在してる。初期はベビーブーム、最近のものは都市に住んでる親御さん、子どもを預けられるなら仕事に出たいお母さんが多くて、待機児童向けに施設を増やすと、それまでは子どもを預ける気がなかったお母さんが預けたいと言い出して待機児童も増えてしまう不思議な連鎖がはたらくそうな…。

参照:待機児童 – Wikipedia

…とここまでがだいたい、アニメ開始5分のお話。

ここからは、大衆の意見が出てくる。

忠実に政治家叩き&政権喪失をアニメで再現

「次の選挙誰に入れる?」「菅山さんだよね~♪」

と特に理由も理念も積極的な応援もないけど言ってる人達が出てくる。(4話からちらほら「他に選択肢がないから菅山さん」という発言が度々出てくる)

この現象をわかりやすく言い表したのが本業が公務員のガッチャマンであるジョーさんの分析。

ジョーさんの選挙情勢講座

ジョー「目下最大の敵は菅山首相。だが、予想得票率(この時点で73%)ほど圧倒的な支持を得ているわけじゃない。現に支持率は下がってる一方だしな。」

「支持率が下がってるのに、皆菅山さんに投票するつもりなんですか?」

ジョー「他に選択肢がない。それになによりそういう空気なんだ。

「空気?」

ジョー「変えるには決断を伴う。だが、そうするほどの決め手がない。結局、周りの空気に流されて、なんとなく今のままでいいやと適当な答えを出してるのさ。」

ジョー「それがこの国の現状さ。だからこそ、お前達(ゲルサドラ)には逆転の目がある」

ちなみに、ここで出てくる菅山総理は解散する時には小泉純一郎元首相のような事をしたが、選挙期間中の5話ではここ最近の安倍政権と末期の麻生政権をミックスしたような位置づけの人。

「他に候補がいないよね(特に安倍さんで問題ないし、変えたいというほどの決めてもないや)」

でもあり、その空気さえも失ってしまうとささいなことで叩かれる。

それもアニメの再現はとても忠実。

麻生政権が失脚する時と同じように「失言」が人々の耳に入った事をきっかけに叩く空気ができあがり、本来なら叩くほどのことでもない漢字の読み間違いをワイドショーが大きく取り上げて「こんなやつを支持するなんて…」という叩かれるのが当たり前の風潮になる。

そして、立て続けに「高級ビーフシチューにご満悦」なんて死ぬほどでどうでもいい叩かれ方をするところまで、きっちり再現。

ちなみに、死ぬほどどうでもいいことだけど、3000円のビーフシチューの元ネタは安部総理の「3500円の高級カツカレーを食べた」というのが元ネタ。

参照:安倍新総裁が食べたという「3500円のカツカレー」を食べてみた!!

さらに、こうした「ズレた金銭感覚を指摘して政治家をなじる」元ネタは麻生元首相叩きの時にあった「カップ麺が400円」発言。大きく間違っているものの正直、どうだっていい話だ。

参照: 民主「カップめんの値段は?」→麻生首相「400円くらい?」 

しかも、アニメでは現職首相をたたくきっかけになったワイドショーがミヤネ屋をパロディした昼のワイドショーだというから、また「衆愚政治ここに極まり」といった目を覆いたくなるような雰囲気が出ている。

ちなみに、ゲルサドラが選挙に出る前に出てた番組もこのミヤネ屋風のワイドショー。ワイドショーの出演者で、司会者のお気に入りだったということもあって、テレビが全力でゲルサドラを宣伝する流れになっていく

 

そして、挙句の果てには「菅山に入れる奴なんて」と特に政策的議論もなく(当初のクラウズに賛成反対という議論さえも吹き飛んだまま)支持者の人格批判まで始める始末。

この人格批判には本質的には何の意味もないのに、なぜ効果があるのかというと「ハロー効果」がという心理効果が働くからである。そして、ハロー効果によって人々が先導され、振り回される話だからアニメのその回のタイトルも「hello effect」となっている。

参照:ハロー効果 – Wikipedia

ハロー効果自体は個人に対して「優れたところが目立つ人には弱点・欠点がないように錯覚する」ようなことであり、「ダメなところ・叩かれてるところが目立つとその人は他のこともきっとダメなのだろう」と考えてしまう心理的なバイアスなことを指す。

ネットで言えば

・無職で太ってるブロガーの書いたことはきっと言ってることもダメダメだろうから叩いたって問題ない。
・美人で清潔感のある女の子のブロガーの書いたことは文章もきっとちゃんとしたことを言ってる。他のことでは優れているのだから。
…見た目と文章力はなんの相関関係もない!だが、人は漠然と好感が持てない相手には期待しないし、平気で悪口を言う。

当然、政治力と人格だって相関関係はない。

だけど、なんとなく「できないところがある人より、なにかできるところがある人にやらせたほうが」という空気になる。

これが政治になると、個人攻撃から政党へのバッシングに変わり、いい人を選ぶことよりも「気に入らない人を排除すること」が目的化する。

しかも、アニメはご丁寧にも2008年の政権交代劇を再現していて、「一回やらせてみてもいい」とか民衆が言い出すシーンが出てくる。

これは民主党政権前に同じフレーズを死ぬほど聞いた決まり文句だ!

ちなみに、この「空気を作ってゲルサドラに勝たせよう」と言い出したジョーさんは「空気に流されるやり方は間違ってる!だけど、その間違ったやり方をしてでも、犠牲者を出したクラウズは排除しないといけない」と菅山排除を目的としゲルサドラを支持してるわけではないのに選挙の手伝いをしたことを明言している。

このへんも元ネタがあり、実は300議席ぐらい獲得してた時期の民主党でも「民主党が正しいというより(あまり正しくないと思ってる人もいたが)、とにかく今は自民党にお灸を据えるべき」といった論調も強く、「自民党にお灸をすえる」は一時期流行語顔負けにニュースやワイドショーの合言葉になっていた。

そして、選挙もおおよそ決着がついたところで、冒頭に紹介したりずむさんがいる留置所へ行くことに。

で、一応医学生なだけあって鋭い分析をしてる。

終盤の鈴木理詰夢の長セリフ

なぜ菅山【元】首相はアレほど批判にさらされているのか?全員が全員、小さな失言やくだらない読み間違いに腹が立ててると思いますか?そんなわけはない。菅山【元】首相を攻撃している人のほとんどは怒りなど持っていないのですよ

では、なぜ批判するのか?攻撃するのか?世間が『そういう空気』だからです。理由なんてない。理屈など必要ない。ただ、そういう空気だから同じものを同じように攻撃し、同じものを同じように愛でる。

累「ちがう、貴方の意見は極論だ。」

いいえ、紛れも無い現実ですよ。それでも、菅山【元】首相に関しては『誹謗中傷で済んでいる』からまだいい。これがもし、もっと罪の重い人間だとしたら、猿どもはそんな空気だからといって流されるまま、クラウズを使って一人の人間をリンチするかもしれない。

累「ちがう」

もし攻撃対象が集団だったら?一つの村だったら?よその国だったら?この意志のない猿は流されるまま、やがて世界を終わらせるかもしれない。

累「違う!」

彼は彼で極端だ。だけど、現に(自民民主問わず)空気に流されて投票した人達のせいで、誰がなっても印象論的な報道をしたり、説明よりもアリバイ作りのようなパフォーマンスが重視される選挙や政治運動がなされてるため、これらの発言自体を否定できないところはあるよね…。

特に、近年の場合は選挙制度のせいもあるが、「中間的な議席数」になることはほとんどなかった。その時々の空気で自民であれ、民主であれ政権を取る政党は圧勝!

圧勝した結果、議席に物を言わせて選挙中には公約に出てきてない政策にばかり取り組んで、だれが政権を握ろうがいらないことをここ10年いっぱいしてきた。

ガッチャマンクラウズインサイトは1~4話まではそれほどすごいアニメだと思えなかったし、正直に言えば前作ほどのカリスマ性もなかったし、新キャラはりずむくん以外は全員好きになれない!

だが、この5話はすごいから見てほしい!

こんなにマヌケに、恐ろしく、ここ最近の政治を切り取れる…やっぱり、ガッチャマンクラウズはすごいよ!

ちなみに、僕はバンダイチャンネルで見てスクリーンショットもそこから抽出した。

 

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