マンガ「ニジとクロ」がペット(珍獣)を通じて世界を広げてくれる

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安定した面白さでした。
マンガ好きな人がマンガの中で見たいものや、提案されたいテーマをキチッと抑えてきているので、「完璧」だと思いました。

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ちなみに、作者はアニメ化もされた人気マンガの「かんなぎ」も作った人。
かんなぎ自体が評判も高い素晴らしい作品だけど…かんなぎを作った時に起こったことが今作で活かされているであろう描写が節々に見られることが面白い。

 

あらすじ

白星クロエという女の子がこの作品の主人公。

彼女は、名前にもあるように…「白黒はっきりさせたい」という考えを強く持っている人。

この性格が災いして度々アルバイトをクビになる融通がきかない性格の持ち主。

だから、インターネットで見かけそうな感じの生きづらさを吐露するようなことも言ってる。

ただ、「白黒はっきりつけよう」は正義感の強い高潔な人格の持ち主の証拠でもあるので…彼女は捨てられてるペットを拾ってしまう。
ただ…こいつが…白黒はっきりしていないと気がすまない彼女にとって、すごく不思議な動物で…そこが物語のキモになってる。

これ、本当にフィクションを作るのが上手い人の考えで…オリジナルの動物を創作することで
・彼女と対極にある動物を作ることでより心情の変化をダイナミックに表現できる。
・ペットについて調べたり、調べが甘くて体に悪いであろうことをやらかして悩む。
・ペットにとっての悩みが相談できる人が限られてくるため、友達作ったり、新しいことに挑む展望ができてくる。
・読者でさえ生態がわからないことで、抗議による炎上を回避したり、一緒に読み進めながら生態を把握する楽しさがある。
と言ったメリットを生んでいる。

創作上の動物だからこそ…検索しないと出てこないし、エサもわからない…これが帰って犬猫鳥といったポピュラーな動物よりもペットを買うことに慎重な飼い主を自然に描く形になってる。

ニジというペットの名前の由来はこの「ニジイロテンゴクオウム」という名称と見た目の虹色感です。

その名前を決めたことで…1話はこんな終わり方をしてる。

メタファライズがしっかりしているからこその、このうまい台詞回し。

うまいフィクションの特徴として「メタファ(隠喩)」という手法がある。
この作品で言えば、白星クロエという名前だけでも「白黒はっきりつける」という性格を暗に示していたり、ニジイロオウゴンオウムのニジ…もストーリー上で「彼女の性格や生活に彩り(色)を与えてくれる」ということを遠回しに言っている。

 

安直すぎない?と思われるかもしれないけど…名前にコンセプトが込められててちゃんとそれが面白かったりわかりやすかったりするマンガはあたり率高いよ!!

名前とストーリーをうまく一致させてくるマンガは名作が多い。

パッと思いつくもので言うと、
・ピンポン!…主人公が星野で、幼馴染が月本。さらに登場人物も読者の覚えやすく物語と絡むようなあだ名がついている人物が多い。特に主人公二人の星と月を強調した演出はとても多いし、二人が切ってもきれない関係のように描かれることが多い。
・刃牙シリーズ…作者が「バキの由来は殴る時の効果音」ととある番組で言ってる。格闘マンガの主人公らしい名前だし、サブキャラも絶妙に名前と自分の格闘スタイル(または元ネタになっている格闘家にちなんだ名前)にかぶせている人が多い。
・NARUTO…一見すると変な名前が多いというか…そもそも、「うずまきナルト」という主人公自体がもうめちゃくちゃ変な名前。初期は「無類のラーメンが好きでこの名前」というわかりやすさがあったけど、終盤にはへその緒や、自分自身に課される封印術(渦巻状の封印術を背負ううずまき一族の末裔)という設定がくっつく。

という感じで…名前の中にキャラクター性を込める手法をとった作品は名作が多いし、名前関連では方向性がブレない作品が多い。へんてこで安直に見えるかもしれないけど、逆にこれがでてきたら作品のあたり率は高まると覚えておくといいかも。

ニジとクロの場合は、性格の表裏をうまく表現したり、現実的な話の中にうまくファンタジーを混ぜる部分もあって、マンガとしての設定がとにかくよく出る

これが、読んでいてすんなりと頭に入ってくるだけじゃなくて、登場人物に抱くストレスがとにかく少ない。
いい意味で「記号化」されているため、詳細を読む前から「こんなもんだ」と割り切って読める部分と、「こういう人間ならどうするだろう?」と想像できる部分があるから、普段ならイライラするような人柄・粗相も「そういう人だし」で笑いながら読める。

作品の中だけではない記号…それこそ、「ツンデレはポニーテール」とか「堅物のメガネ」みたいなキャラ付けだと逆にありふれてしまったり、理解は早まるけどストーリー上に深みを与えることは少ない。
でも、作品独自の記号を、名前やコスチューム、登場人物の技や生い立ちに込めることができてる作品は名作が多いし、この作品は特にそれが良くできている。(できていることで、登場人物を理解して変わったことやいらつくことも読者に受け入れやすい環境を作れていてすごい!)

癒し系マンガに見えて、実はかなりの社会派

ニジとクロはペットを通じて、飼い主のクロが「白黒はっきりつけないと気がすまない性格」が変わっていく物語だ。

マンガの中身はものすごくほのぼのしているし、難しいことも言ってないが…そこに込められているメッセージはすごく深い。

まず、「白黒はっきりつけないと気がすまない」という正義感が強くて面倒見がいいものの、融通がきかない性格…。
インターネット上には、本気で言ってるか、冗談かは別としても…こういう人はとても多い。

そして、作者が前に連載していた作品が「かんなぎ」であることも大きい。

なにしろ、ニジとクロの前に連載していた「かんなぎ」という作品では、
「マンガやアニメのヒロインは純潔じゃないといけないんだ!!」
という人達から、ヒロインの過去の交際を描いてしまったがために、本をビリビリに破られるなどの猛反発を受けてしまったのだ。

男としては「自分だけの女でいてほしい」という気持ちもわからなくもない。
しかし、本を燃やして抗議する人が出てしまうほど「こうあるべき」「こうであってほしい」という願望が強い人の存在はしんどい。
他人としてもしんどいばかりか、その人自身が自分の考えでいきづらくなってしまう。

そんな被害を受けた作者が、次回作で自分のマンガを破るような固定観念や(偏った)正義感の強い人をマンガの主人公に据え、救済を試みているのは、愛情も感じる。
愛情だけではなく、社会に一定数いる困った人を描くことで社会の病的な部分を浮き彫りにしている

この試みが面白い。
さらに、融通がきかない人であっても、2,3歳の知性しか持たないペットに対しては自分から歩み寄らざるを得ないことを描くことが、晩婚化、少子化、高学歴、契約社会で生じる問題を遠回しになぞっているところがあるのが深い!!

深読みのしすぎとも言い切れないのは、クロが大学生だというところ。
高校時代バイトしなかったぼくにとっても、バイト先で出会うクレーマーみたいな人や、横暴に仕事上のものを言ってくるタイプの人は…学校にはいない「正論が通じない人」で、すごく大変だったのも覚えている。
アルバイト先で白黒はっきりつけられないことにイライラするクロは、バカバカしく見えるかもしれないが、アルバイトをスタートさせた頃の自分のことを思い出すと、バカだと笑い飛ばせないもの共感めいたものも感じる。

そんなクロでも…ニジにはすごくハードルが下がる。
決められた場所でうんちしたり、ご飯をしっかり食べたりしただけで褒めたくなる。

人間相手だと自分からわかろうとすることはなかなか難しい。
ついつい相手も同じ人間だと思ってしまうし、言葉でいえばわかるべきだと考えてしまう。

しかし、ニジとの生活は能動的に愛情で自分から歩み寄ることを目指して変わっていこうとできてる。
それはすごくクロだけではなく、クロのような固定観念が強すぎる人にとっても優しい世界であり、いい解決策・変化するための提案にもなっている。

作者の力量、優しさ…両方が詰まってて、安心して読めるマンガ。
このマンガを通じて世の中に色んな色が溢れて…いや、すでにあった色に気づける人が増えてほしいし、自分も気づかされ、感動したので、是非オススメしたい。

 

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