またとんでもない作品が出てきたので、紹介したい。
この作品、何がすごいかというと
「原作もマンガもとにかくクオリティが高い!!」
「描くテーマがなろう作品の最先端を行ってて、面白い!」
「社会派のようなすごいメッセージが込められているのに、専門的な言葉を使わず美しい物語を紡ぐことで表現されている(特に9話)」
となってます。
…と言っても、うちのブログでこの作品を紹介するのは初めてだからまずは簡単なあらすじから。(※検索などで「9話の感想だけ読みに来た」という人は後半まで飛ばしてね♪)
簡単なあらすじ
主人公はレベル99の料理人「デニス」。
彼は、「銀翼の大隊」という名門ギルドに所属する冒険者だったが…1話冒頭で追放されてしまいます。
追放されてしまったデニスは、料理人のスキルを生かして「冒険者食堂」という食堂をオープンすることにしました。
彼的には冒険者としてのキャリアを捨て、料理人としての第二の人生を歩み始めたのだが…面倒見の良さから悩める冒険者(追放者)が多く訪れる食堂になっていきます。
色んな人が悩みを相談したり、その人情話が読めるところが「深夜食堂」っぽくもあり、
色んな厄介事に舞い込まれては、力技で解決してしまうという「銀魂」みたいな作品でもある。
作品に対する説明ならこれだけで的確に説明できてる…はず。
ただこの作品、なろう作品としての立ち位置がかなり独特。
普通の人にはどうでもいいことかもしれない。
ところが、なろう作品の評論なんか読みたがるモノ好きは「なろう作品を作る人側」「なろう作品をああでもないこうでもないでもないと批評したがる人」「マンガオタク」と相場が決まってるから…少しそこを語らないとね…。
一口に「なろう」と言ってもトレンドがあって、それを知ってると「この作品は最先端なんだなぁ〜」と感じられて楽しさ倍増!!
大まかな流れとして、いわゆる「なろう系」は…最初二次創作作品っぽいジャンルだった。
「ゲームの世界観に入ってみたい」
→ゲームの世界に入った、異世界転生したなど
「いつも主人公が勇者や剣士じゃつまんないから、違うキャラを主人公にしよう」
→盾で戦ってみようとか、冒険者ではなくモンスター側に主人公を置こうなど
「現代のものをゲーム的な中世の世界に持ち込めたら最強では?」
→スマホ(?)を持ち込む、スマホで調べられることで戦いを有利にするなど
要は、子どもの頃にファミコンとかプレステで楽しんだ「剣と魔法のファンタジー」の二次創作的な作品。最初は、J-RPGの文化ありきのジャンルだった。
ジャンルだけでなく、作品世界を表す言葉もフワッとしてて、「中世ヨーロッパ風」という言い回しがよく使われていて…これのせいで、なろう系が苦手だった時期があった。
もし、J-RPG作品のファンに「中世ヨーロッパ風に転生した」と言えば、「ゲームっぽい建物が乱立するあの世界ですか!?羨ましいですね」と喜ぶことだろう。
ただ、世界史オタクに中世ヨーロッパ風とか言ったら…きっと青ざめるだろう。
「魔女狩りですか?」「黒死病ですか?」「(キリスト教の)教会の人とうまくやってますか?」「抗生物質がない時代ですから大怪我したら…今なんかよりもずっとヤバいから気をつけて」
などなど、史実でのサツバツとしたイメージを持ち出されることだろう。
確かに、便利な言葉であることは間違いない。
だけど、それを小説を書くはずの人が安易に「中世ヨーロッパ風の世界」とか「オンラインゲームの世界に」みたいな感じで表記されることに…最初はすごい抵抗感を感じて…それが当たり前になってる、作品全体の設定が(何かしらのゲームをやったことある人向けになりすぎて)ふわっとしてる感じがどうにも苦手だった。
みんなが疑問に感じ始めた結果、なろう系は細分化して、進化した!!
ぼくみたいな、1オタクでも考えつく疑問は…自分の作品を作り込むようなもっとすごいオタク達は作品に仕上げるほど考え込む…だから、すごい!!
さっきの「中世ヨーロッパ風」の例で行くと…本当に、中世ぐらいの科学技術しかない異世界に現代医療を持ち込む「異世界薬局」というマンガができたりした。
他にも、アクションシーンがすごい作品というのがなろう系・異世界転生モノに少なかったことから、格闘マンガのプロが異世界転生モノを描く「ライドンキング」みたいな作品が出てきた。
「流行りだから色んな人が便乗した」という側面もあるかもしれない。
しかし、【ゲームの世界に迷い込んだ人物をマンガにしてしまおう】というフォーマットには光るものがあった。
だから、各分野に詳しい人達がなろうというフォーマットをうまーく使って、読み物としてのレベルを上げていった。
そして、進化系の1つに、リアルな感情移入ができるように、現代人と同じような悩みを持ってる人達の話を書く人も出てきた。
昔ながらのなろうだと、現代人が賢く、異世界は遅れてる・感情移入できないほどチョロい人も多いという感じだったけど、最近はアップデートされてつつある。
そのカラーが強いのが、森田季節先生という「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」や「若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!」と言った作品を作ってきた人。
スライム倒して〜では、ブラック企業で過労死した女の子が異世界転生して第二の人生ではまったりスローライフを目指す作品。
黒魔法では、魔法使いとして才能があったものの、就活に失敗。
その後才能が活かせる職場やクセの強い仲間達との生活を社会派っぽく描いた作品。
特に、黒魔法はさすがは高学歴ラノベ作家(京大に入って大学院にも行ってた人)ならではのクオリティとなっている。…賛否別れてるけどね。
脱線が本編となりつつあるが、話を戻そう。
今回の「追放者食堂へようこそ」は、進化したなろうの中でも、「現代人と似たような悩みを持った人を描く作品」なんです。
一方で、昔ながらのなろう作品で当たり前だった。
・冒険者のジョブやレベルの設定があること
・主人公自身がレベル99の料理人という「冒険者に不向きではあるものの、能力を持っている側」
という感じでもあるんです。
つまりですね…「追放者食堂へようこそ」の何がすごいかと言うと…昔ながらのなろう作品らしさと、最近のニューウェーブがうまく融合しているんです!
それでいて、それぞれのいいとこ取り・補い合いができている。
ゲームをやったことがある人なら設定が直感的に伝わる「昔ながらのなろう」の良さ!
ゲームの中を描きつつも、現代人が社会生活で悩むような問題と向き合うことで生まれる強い共感や、フィクションを通じて価値観がアップグレードされるような物語の重厚さ!!
その両方があるので、この作品を僕は推したいというわけです。
…まぁ、9話の場合は1巻でおおかったカジュアルなお悩み解決というよりもむしろ、「社会派」としての側面ですごくて「自分が大きな財産を手にしたり、権力にぶち当たった時にどう考えればいいか」という価値観・考え方についてのストーリーがものすごいんですけどね。
(もう忘れられてるかもしれないが、)本題の「9話」の話
話は1話にさかのぼる。
主人公のデニスが、食堂の出店準備中が後に看板娘となる女の子を買うことになった。
彼女の名はアトリエ。
彼女の家柄はそれはもうスンバラシイものだったのですが…追放されてあられもない姿に。
その父親の素性と、相続を巡る裁判が行われることが8話で明らかになります。
ただ、お金持ちの家であったため、親戚一同の空気はギスギスしていて、裁判や法的手続きには「行きたくない」とアトリエは渋い反応をしていました。
デニスの説得もあって、裁判を受けることにしたわけですが、法廷の場で、裁判官やアトリエの執事だった男を買収するインチキな裁判を展開します。
…で、ここからが大事。
相続を巡る裁判で遺言書を無効にされ、相続するものを遺言書と入れ替えさせられたアトリエであったが、アトリエが相続した「知識の邸宅」の方が見た目はボロでも、中身は宝の山でした。
単に「父親が優秀すぎて娘のために財産を残すために死後の展開を見越した行動をとった」という話で終わらないんです。
父親の弟(アトリエにとっての叔父)が物の価値を表層的なところしか見ない、周りに不満を持つ人がいても手続きを踏んでわからせようとしてくるところまで計算に入れて陥れたというのだからすごい話です。
自分が死んでいるのに、自分の存在を使って敵を罠に嵌めるという発想自体が「死せる孔明生ける仲達を走らす」みたいな話で、すっごいアイデアだと感じた!
ここまででも非凡な作品で「天才の仕事」だと私は感じた。
でも、すごかったのはここから。
残された財産をアトリエは…とんでもない方法で活用する!!
自分の財産をデニスの食堂を訪れた人達に読めるように公開するといい出す。(※実際にやる)
ぼくはこれ読んだ時に「最も高貴な人間の振る舞いだ!!」とめちゃくちゃ感動した。
偉い人や責任ある人の義務・大衆への貢献を「ノーブレス・オブリージュ」と言うのですが、そういうモノを自然体で実践してる姿を描いてきたことにすごく、キュンと来た。
それも、今の世相で読んだからなおさらグッときたわけです。
中華史に出てくる奸臣や、今の政治家の理解していると、より感情移入できることを「追放者食堂へようこそ!」では難しい言葉を使わないで説明してるから天才的なんや!!
アトリエの叔父は、「なろう特有のバカな悪役」とかじゃない。
むしろ、世界史や政治史を知ってる人がイメージするような「リーダーを骨抜きにして、影から権力を握るダメな奸臣」そのものなんです。
特に中華史には「権力を握るのは天才的だけど、みんなのことなんか考えてないから、権力に居座り続けることで国が滅びていく」という人が何人かいるんです。
興味のある人はこの辺の動画↓をどうぞ
俺の世界史さんはそういう人を紹介するのがほんと天才的だから、ぜひ見てみて!
「こんなマンガみたいなダメなやつおるんかい!」
ってやつをゴロッゴロ紹介してくれるから。
「もし、そんな人が日本の政治を牛耳ってるなんてやばくないか?」
ヤバいですよ!?
今の政治が中華史に名を残す奸臣ほどヤバいかは知りません。
しかし、前政権で取り決められた国民への給付金を打ち切ったり、厳しい要請をするだけで新たな保障をしなかったりして、売上80%減のサイゼリヤの社長なんかは記者会見で怒りをぶちまけているわけですから…。
もしも、民衆のことを見ないリーダーが政治の中枢に本当にいて「手続き上のこと」「権力を持つ関係者のこと」ばかりにしか目を向けてないなら恐ろしいことになるでしょう。
でも、政治とか歴史の話って「好き嫌い」が大きく分かれます。
だからこそ、「難しい言葉を使わない」「説教臭くない」「フィクションとして面白く痛快な話で表現する」って難しいし、その難しいことができる人はすごいんです!!
それと同時に「権力の使い方が上手な人、大衆から支持される人」についても、アトリエの振る舞いを通じて描いています。
中国史だと宮中での権力争いしてる人は国をダメにする一方、
庶民上がりだからこそ庶民の苦しさをよく理解している人や、傀儡化を企む奸臣と距離を置くことに成功した人は国をいい方向に導いて国を長く存続させたりしてます。
ローマ史だと、「大衆から人気があるけど、身内に厳しい暴君」はいてその最たる例がネロなんですけど…そのネロもローマ大火の際には自ら駆けつけて復興支援したり、火災後には火災に強い街にしようと私財を投じたり、自分から率先して火災に強い建物を作ったりしてることで再評価されてるんですけどね。(そもそも評価が低いのはキリスト教や、身内殺しの問題があったり別のところなんですけどね…)
現代政治では、国民に広く給付金や補助金を支給したら「人気取りのバラマキ」、
経営者が私財をなげうって社会問題を解決しようとすると「偽善者」呼ばわり。
彼らが100点ではないことも確かに多い。
でも、庶民のことなんか見向きもせず、コソコソ権力争いしてる連中に比べたらどれだけありがたいことか…。
歴史に詳しい人の動画または書籍をいくつもいくつも見れば、こういう話はいくらでも出てきますし、好きな人には夜通し語り尽くせることでしょう。でも、フィクションの中でそれを、歴史の授業なら絶対寝てしまうような人達にまで読ませるのがすごいんです!!
それだけ、「なろう系」特有の「ゲームっぽい世界観」は今のオタクにとって色んな話を聞き入れやすい優秀なジャンルでもあるし、中でも踏み込んだことを描いている「追放者食堂へようこそ!」がクオリティが高くて面白いってことなんです。
だから、多くの人に読んでほしいと思うわけです。
ちなみに、9話が掲載されてるのは2巻です。