久々にPC用ゲームを紹介してみる。
少し前にやった「カリスは影差す迷宮で」を紹介してみたい。
・ゲーム概要
「中尉、君には二つの任務が与えられる。
一つは、鉱堀作業中に発見された遺跡の調査。
もう一つは、同行する護衛者の抹殺だ」
要するにダンジョン探索RPGです。
主人公は軍属の考古学者で、現代では失われた技術の眠る遺跡を探索し、遺物や古文書を回収します。
作者は「黒先輩と黒屋敷の迷宮に迷わない」でお馴染みの饗庭淵(あえばふち)さん。
…ということで、イラストについては信頼と実績のこのクオリティである。

彼女が強力な魔法使いで、頼りになる味方で、何よりターゲットである!!
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ふりーむ カリスは影差す迷宮で
夢現 カリスは影差す迷宮で
お色気要素抜きで、大真面目に深くて面白いRPG!!
いかにも、お色気要素満載なイラストを描く人だが、決して見かけ倒しではない。
むしろ、ゲームの中身こそが「よく作りこんでるな−」と脱帽するほどのクオリティだ!
登場人物の知識レベルをズラすという高度なテクニック
まず、主人公が「軍属の考古学者」ということで、作品世界上の歴史設定がすごく細かい。
…微妙に違うか。「歴史設定が細かい」のではなく、「知識と事実の溝」を表現するのがウマい!
例えば、一般的な歴史知識しか知らない魔法使いのカリスと、厳密な歴史を知ってる考古学者のキース。
さらには、それを政府がどう扱っているか、遺跡を発掘することでどんなふうに定説が変わるか、そして遺跡発見以前の定説はどうして(間違ってるのに)形成されたのか。
歴史にまつわる「情報の非対称性」を登場人物の立場や知識、あるいは時代背景によって、本当に知識レベルが違う人間や、何かしらの意図・あるいはウソを信じてる人の間違いが存在するかのように語っているため、テキストがとても読み応えがあった。
しかも、ダンジョンや舞台が変わることに対する設定がそれぞれにある
テキストの読み応えは「個々の知識が違うことや、歴史を発見する・発見したことを読み進めていくと本当に世界が広がる」という凄さだけではない。
ダンジョンの中にある独自の世界観(地下1〜地下10階+隠しステージがいくつか)あるが、それぞれに設定がある。
魔法があったり、歴史上の人物同士の関係性や事件があったり、(別の歴史観を教えられた)考古学者が訪れた時に定説の何が変わったかがある。
それも海底(水没都市)〜誰かの妄想した世界、ほぼ脈絡がないパラレルワールドまで、いろんな世界が出てくる。迷宮ってレベルじゃないほど、冒険する範囲や要求される謎解きが吹っ飛んでる。
それだけ登場する世界の幅の広さからして脱帽なのに、それらを1つ1つきっちり繋いでいて、なおかつ二重三重に視点が違う理屈を考えてある所が面白い!!(単に何でもありな作品もあるが、ダンジョンの多彩さの割に、脱線がほとんどない。むしろ、脱線した時こそ面白くなってるため、脱線が楽しみですらある)
しかもだ!
龍とか魔王とか、ゲーム上によくある設定のモノを独自に解釈し、歴史を作った作品なら僕はいくつか覚えがある。ダンジョンに対して面白い言い訳を考えたり、主人公のメンタリティをダンジョンやキャラクターを使って表現する作品も覚えはある。
ブログのプロフィールの中に「SFが好き」と書くだけの事はあって(?)、ゲームでありふれた題材は見事に避けた上で、これだけのことをやってる。
よくあるRPGが好きな人とは違う元ネタ(得意分野や趣味)を持っているであろうゲームを作り、それでいて設定がかなり掘り下げられてる。
やり進めていく人には、それをじっくりと楽しんで欲しい。
「カリスは操作できないし、回復してくれない」。だが、それこそRPGとしての深み
影響を受けた(どこかで使ってみたい)と思ったのは歴史に対するものの見方の違いだが、ゲームとして肌感覚で面白いと感じたのはむしろ「主人公が弱く、カリスが強いが、そのカリスがちっとも操作できない」というところだ。
主人公が弱い、レベルが下がる(上がりにくい)といった作品なら幾つかやったことあるが、ほぼ一貫して主人公よりも強い(それも操作できない)味方を暗殺するゲームはやったことがないから、ゲームの大元自体が僕にとっては斬新だった。
それも、主人公「キース」の弱さが尋常ではない。
カリスありきで考えられているため、初期装備・初期能力でははじめに出会った敵からも致命傷を食らって冷や汗をかくような戦いを強いられる。
したがって、序盤はエンカウントから逃げまわる必要が出てくる。回復アイテムが乏しいし、弱い主人公がやられるとそれで日程を消費してしまうから、冒険が慎重になる。(特に初見プレイはなおさら)
中盤?いや、終盤までは一人で冒険するのも難しいし、カリスが「元気な状態」ならサシで戦って勝つのは難しいだろう…。
終盤になると主人公がそれなりに強くなる・アイテムを使ってカリスなしでも危険なところに入れるのがこのゲームの大きなミソになるかな…。
それに、隠しステージや特殊な敵がいることも踏まえると、RPGの戦闘要素もかなり手の込んだ作品かも
日程管理とエンディング分岐があるからくり返しプレイするかも…
テキストも、RPGとしての戦闘もすごい作品だが、やっぱりダンジョン散策ゲームだから、ダンジョンの話もしておこう。
いや、「ダンジョンが広くて探しものに苦労すること」よりも、ゲームクリアのために大事なのは「リソース管理」かな?
しかも、RPGに於ける「リソース管理」と言うと資金や武器・素材の管理だけど、このゲームなら「時間」の管理が大事になる。
遺跡発掘の期間が30日与えられ、遺跡から次のフロアに進む準備期間に日数を消費したり、古文書や魔法書の解読などにも時間を使う。(日中は遺跡に行けるが、夜間は解読しかできない)
ゲームオーバーやバットエンドではないENDが全部で4種類あるらしい(3つ出したけど、1つ攻略系のページを見てもよくわからなかったので出せてない)が、この中で狙ってるエンディングがあると、日程を前倒しにしたり、セーブを分けて検証プレイをしないと達成できないことがある。
実際に、プレイ中に自分の予想とは違う展開に分岐して「このイベントが起きるとこのENDで固定される?」「このイベントを起こすにはあと数日先回りしておかねば」と言った試行錯誤をやって、そのためにゲームを最初からやり直してエンディングを出したことも…。
ただし、初見プレイを楽しむのと、早足で効率プレイを分けやすいゲームだから意外とやり直しが苦にならない。同じテキストを2回読まなくていい工夫もいくつかなされてるからやりこみプレイのストレスが少ないのが、嬉しい!
…とこのように普段プレイしているゲームとは一線を画するような仕様・設定・一手間がかかっているため、楽しめる所はけっこう見つけやすい作品。
敢えてつんのめるような部分を指摘するとすれば
「絵に対して好みが分かれる(女性に勧めにくい)」
「ダンジョン探索作品だから、ダンジョンで迷うとプレイ時間がごっそり持って行かれてしまう(迷った挙句回復アイテムやMPが減って、イライラ…)」
「初見の時にはわからない迷路やプレイ中の分岐がいくつも仕込まれているため、慣れてないうちに攻略サイトに頼りたくなる(が、見やすい地図をまとめてくれるサイトがないから、文字を読みながらゲームを操作しながら、時々書いてない部分も補いながらのプレイになる)」
の3点ぐらいじゃないでしょうか?
それ以外は難しさも含めて、斬新さや作りこみが感じられて楽しめる作品なので、僕はかなり気に入りました。
「気に入った」を通り越して、「勉強になった」とさえ思えた作品だから、文章書いたり、創作物を批評したり、作ったりする人は特にオススメ。
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饗庭さんの作品繋がり。こっちはもっとシンプルに面白い。
世界観がやったらと濃ゆいゲーム繋がり。