プロ野球に於ける選手タイプ「覇王」と、V9が実現した理由

私はプロ野球選手のドラフトやキャリア、獲得した選手の性質を考える時にいくつかのタイプに分類する。

 

例えば、「軍人」タイプ。
これは、高校時代であれば、「甲子園常連校で野球の英才教育を受けた選手」や「大学に入ってから厳しい学校で特別な訓練を受けた選手」に対して、「軍人」タイプという名称で呼んでいる。

例えば、オリックスはこのタイプが多い。
高校時代に甲子園に出ていて、細かい野球ができたり、少ないヒットで得点できる野球を叩き込まれた秀才がたくさんいるため…スキのない野球・安定した試合運びに強い選手は多いです。(代表的なのは吉田正尚・山足達也・大城滉二など)

 

「プロ野球選手なんてみんな軍人タイプじゃないのか!?」
と思われるかも知れませんが…そんな事はないです。

 

例えば、ぼくの地元である兵庫県の選手を「州兵」タイプと分類しています。

兵庫県というのは、戦前から野球が根付いているから、公立校出身者でもプロとしてレベルが高い選手を多く排出しています。
兵庫の公立出身者なら古田敦也・中島裕之・田口壮・近本光司らが有名ですが…その秘密は兵庫県自体の層の分厚さにあります。

兵庫県は報徳や神戸国際大附属などの「甲子園常連校」だけがレベルが高いのではありません。
公立までひっくるめてレベルが高く、公立校が「うっかり」甲子園に出てしまうことがよくあります。
プロ選手養成校の側面を持つ社高校や明石商業はともかく、別にそんなことない三木高校・長田高校だってけっこう最近に甲子園に出ました。

日本にはこのように「高校単位じゃなくて、地域単位で野球のレベルが高すぎて、人が揃うとうっかり公立が甲子園に行く/甲子園まで行かなくても名選手を出してる」というところがいくつかあるんです。

そういう地域の出身選手を「州兵タイプ」と位置づけてます。

昔の西武は熊本と兵庫が大好きでしたが…この2つはまさしく「州兵」が集う地域です。
今の西武は出身地が分散されてますが…結局、長く一軍にいるメンバーを見ると出身地のばらつきが減って、沖縄や北海道みたいな新時代の州兵が多いところや、兵庫大阪福岡という昔からレベル高いところで野球やってきた人が生き残るんですよね。

甲子園出てなくてもレベルの高い地域出身だと、野球の基礎力が高い素晴らしい選手・大学で本格的に打ち込んだらすぐに頭角を表す選手は多いんです。
プロに入る選手の出身都道府県をよく見てみてください。大学に入る前は兵庫や沖縄で頑張ってきた選手は、けっこういますし、西武・楽天はこういう州兵タイプすごく多いので…面白いですよ。

 

まだまだ、

プロ養成校タイプ…甲子園にはそんなに出ないけど、名プロ選手を多く排出してる学校出身の選手。スケールの大きく大きな個人記録を打ち立てる選手も。
例;履正社・都城高校・社高校・イチローまでの愛工大名電などの出身選手(愛工大名電が甲子園常連校寄りになってきたのはここ20年ぐらいの話)

 

革命家タイプ…学校が強くなくても甲子園に連れて行った選手。または、ほぼ一人で甲子園に連れて行ったり、それなりの規模の大会を優勝に導いた選手。最初からそこそこ活躍する上に、野球IQがぶっ飛んで高い選手が多いが、自分で考えて進むタイプゆえにいい指導者に出会えないと伸び悩みがち。
例;山岡泰輔・若月健矢・中川圭太・辛島航…でも一番有名なのは中村紀洋。(中村紀洋は大阪の公立校という圧倒的不利をほぼ一人の実力でひっくり返して甲子園へ)

など面白そうな分類はいくつか思いついているのですが…今回はその中でも、一番特殊な選手タイプである「覇王」について紹介したい。

 

覇王タイプの野球選手とは?

・甲子園ベスト4以上
・無尽蔵のスタミナ
・勝利への執念
・ここ一番の勝負強さ
・天才的または唯一無二のプレイスタイル
・破天荒な性格

などがそろった、甲子園のスターのこと。

毎年多くてもピッチャー8人、バッターなら…2人ぐらい?しか誕生しない選手タイプです。

ところが、甲子園ベスト4以上のスター選手って意外とプロになっても成功する人が少ないのです。

理由は「覇王は人よりもがんばれるからこそ、故障すると深いところまで壊れてしまうから」というのが大きな理由です。

なぜ、甲子園のスターはプロに入っても、伸びてくる人はごく一部なのか?

そうですね…「成功できなかった覇王」だと、斎藤佑樹投手や、島袋洋奨投手あたりが有名でしょうね。
ふたりともすごいピッチャーなのですが…甲子園で投げすぎただけでなく、大学野球でも投げすぎました。

特に島袋投手は10日で3試合441球や、15回226球など。
もう聞いてるこっちが胸が張り裂けそうになるレベルの酷使を中央大学の監督から受けて…投手生命が、実質的に終わりました。

でも、考えてほしいのですが…普通、そんなに投げられます?
すべては島袋投手が「覇王」だからこそ、できたピッチングであり、島袋投手じゃないとこんな壊れ方がそもそもできないんです!

この「覇王」という概念…最初は西武の今井選手が年に2,3回見せる超人的な能力を説明するために作った概念だったのです。
しかし、覇王タイプの選手を調べるうちに「覇王は大学に行ってはならない。なぜなら江川卓クラスでもない限り、大学側に無責任に酷使されて、必要以上の深手を負って、プロで活躍する前に散ってしまうから」という結論に至ることができました。

大学野球は覇王の性質を悪用するチームが多い。
同時に、勝利への執念が強い覇王タイプは、普通の選手なら絶対にできない限界まで到達して壊れ、一度壊れると常人では考えられない重症を負うことが多いです。

だから、選手を預かることに対する意識が低い大学野球は…覇王と相性が悪いです。
プロなら故障させれば、ファンからの批判はもちろん、球団の編成も狂ってしまうから大問題ですが…大学野球にはそれほどの重責がある(あったうえでの起用をしてる)ように見えないのです。

 

他にも、チーム相性もありまして…オリックスと覇王はすごく相性が悪いです。

オリックスは何回か、甲子園ベスト4以上まで投げぬいたすごい投手の獲得を試みたのですが…山崎福也以外はろくに活躍できずに撃沈しています。

オリックスが故障に追い込んでしまう…というよりかは「覇王が持つ唯一無二のピッチングスタイル」を常識的な感じにいじってしまうため、佐藤世那投手みたいに「覇王っぽい投手」が最終的に自分のスタイルさえ失って引退していく…というケースになってしまうのです。

 

だから、オリックスには「覇王っぽい投手」というのはいません。
いかにも成功しそうな覇王は、西武・巨人・日ハムがドラフト1位でかっさらうことが多いから獲得に乗り出しにくく、かといって未完成な覇王をドラフト6位ぐらいで獲得しても…チューンナップできないんですね。

西武と巨人が「覇王」を好きすぎる理由

西武にはバッターの覇王として、清原和博・森友哉をドラフト指名した実績があります。
逆に、投手の覇王としては、松坂大輔・今井達也・髙橋光成をドラフト指名した実績があります。

西武はですね…選手を大量に揃えて戦うのが苦手なチームです。
日本シリーズに出る時、オリックスならば代打やユーティリティプレイヤーがベンチに備える全員野球なのですが…西武はそんな小賢しいことはしません。(してる時の方が珍しいです)

そのため、西武はレギュラー陣の質を極限まで高めた野球を目指すのですが、そんな時に「覇王」を指名すると、一気にレギュラーの質が上がります。

また、西武はピッチャーを育てるのも「若いときからとにかく実戦!」という傾向が強いため、覇王とめちゃくちゃ相性がいいです。(※オリックスは、どんな注目ルーキーでも半年は2軍で試します。)
しかも、覇王としてのレベルが高いと「勝利への執念で圧倒的な力でねじ伏せてしまう試合」が、ルーキーからでもいくつか発生するため…運がいいと即戦力ローテ入りすることまであります。

 

ただし…西武のチーム防御率はダメな時は驚くほどダメです。
基本は我慢強く実戦起用し続けて、成長するのを待つ(そして、また流出や故障で入れ替わって撃沈)を繰り返しになることが多いです。…普通は、即戦力な覇王なんて出てきませんから、しょうがないのです。

逆にオリックスは、流出やキャッチャーがダメすぎた時期は酷勝ったです。
でも、一度整うと数年単位で投手運用は安定していました。(打てないから負けてたけどね)

この辺のチームカラーの違いで覇王の育成に向いているのです。

 

そして、巨人の覇王というと、80年代の桑田真澄・江川卓といった面々ですが…これは巨人の気質が大きいですね。
巨人の選手は…他と比べて我が強いというか、芯が強いというか、図太い部分がないと人気球団のプレッシャーや厳しい競争を前にして、巨人軍では生き残れないんですよ。

オリックスみたいに、時間をかけて大きくなるとか、入団拒否しなそうな社会人選手を多く取ってるから大人な人が多いとか…そういう雰囲気とはぜんぜん違うんです。

そういう闘争心あふれる、この世の負けず嫌いナンバーワン決定戦みたいな場所では…覇王が強いんです!

破天荒でバブリーでストイックな一面をもつプロ野球選手と結婚したい人は巨人軍!
逆に、お金使う時に嫁と相談したり、打てない時に野次ったら喜ぶぐらいの家庭的な一面を持つ人と結婚したい人はオリックス!

そういう違いです。

最も成功した覇王「王貞治」とV9の話

ぼくが思う「最も成功した覇王」は王貞治です。

王さんは…高校時代は大投手でした。
高校2年の頃、春のセンバツで優勝したり、夏には延長11回までノーヒットノーラン。
しかも春のセンバツはエースで4番で、決勝ではマメが潰れても投げ続けたことから「血染めのボール」というマンガみたいな(多分、マンガの方が逆輸入したと思われる)エピソードをお持ちの【覇王らしい覇王】みたいなピッチャーでした。

ところが、プロに入った時には壊れてたんです。

そこで、3年かけてバッターに転向して行き、【覇王】タイプならではの、

下半身/体力の完成度で、1年目から94試合、2年目にはフル出場
→よく王貞治は最初の3年間は低迷期と言われるが、本当に酷かったのは1年目だけで、2年目3年目には並の選手ぐらいの成績は基礎ができあがっていたことで、普通に出せていた。

・4年目からは一本足打法で覚醒して…そこから引退まで18年間ずっとホームラン30本以上。
→ご存知の通り過ぎて省略。

ただし、覇王の話として特筆すべきことを1つ。
野村克也によると「配球や球種を読むのではなく、来た球を打つ」というタイプだったそうで…本当に集中力と技術だけで打つタイプだったそうな。(ちなみに、当時存在したサイン覗きの文化にも一切関与しないで「サイン教えなくていい」と言って、打ってたから本当に超人的な集中力で打つという、覇王らしいスタイルだったらしい…)。

 

なんでこの話をするかと言うと…当時の巨人の判断力がすごいと感じたから。
今でもプロ野球に来る覇王タイプの選手はピッチャーとしては旬が過ぎた人が多いし、かといって野手転向したからと言って徹底指導しながら大打者に成功させるケースは少ないのです。(ピッチャーとしてボロボロで、1から打者転向させて大化けた人に松井稼頭央さんがいるので、全くいないわけじゃない!)

でも、野球をやったことある人ならピッチャーが一番下半身ができあがってて、体力もついてるため、王貞治さんの起用法や育成方針はこれ以上なく理にかなっているため、もっと主流になっても良さそうなケースではある。

ましてや、V9というプロ野球史上類を見ない常勝軍団の中で
「これは他のチームがほとんどやってないことだよな」
と感じるのは、打者転向した王貞治を大成功させたことなのです。

なので、余計に覇王タイプ(と言われるほどアマ時代にピッチャーとして大成功した選手・鍛え抜かれた基礎力を持つ選手)はもっと野手で腰を据えて育ててもいいんじゃないかな?と、改めて思いました。

もちろん、V9の要因というのは考察されつくしてて
「ドジャースの野球をいち早く導入」
「投手酷使時代の影が残ってる時代に、中継ぎをたくさん活用」
「長嶋茂雄の異常な勝負強さ他V戦士それぞれが優秀だった」
など、色々出てくると思うんです。
だけど、改めて考えてみると【今のチームでも、甲子園優勝投手のポテンシャルをうまく生かして、バッターとして再起させられてるかな?】と考えてしまうんですよね…。

ここにたどり着いた時に、

「あー選手の分類なんて野球ファンが、野球を一人で勝手に楽しむためのお遊びだったのに…もしかしたら、野球選手の可能性のキャリアや可能性について検証、場合によっては選手の育成法・起用法に応用の効く面白い理論を見つけたのではないか?
というところにまで行けて、個人的にワクワクしました。

 

 

このシリーズ、好評だったら、他の選手タイプもやります。

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