多分、蟹丹先生をこれでもか!!ってぐらいに推薦してきた私だが…今回はちょっと違う。
彼の芸に見える迷いが見えて私個人的には不憫だった。考えすぎかもしれないけど、自分が通った覚えのある葛藤を彼は抱いて気負っているなぁ…これが僕の素直な感想。悪口以前の問題として、彼と会った際の感覚が前回とまるで違う。
接したときの感触が…硬い。自分が商売をやっていた時の経験で知っていることだが、別に攻撃的な感情が無くてもプレッシャーや言葉のやり取り一つで「怖い」と感じることが人にはあるのだが…私があった時の蟹丹さんというのはそういう感じだった。
- 僕に同人誌をタダでくれた理由
滅茶苦茶失礼なことを冒頭で言わせてもらえば、彼は職人気質だからこそ、彼の中での「売れないからあげますよ」と僕に同人誌をくれた時の感覚はおかしなものがあった。彼自身が同人誌の価値に気づいているようなやり辛さみたいなものが見えた。経済学には「価格の弾力性」という理屈があり、1000円でも安売りなイラスト集もあれば、逆…つまり500円で高いイラストもある。
そして、これは数字でもはっきり出ていることで1000円するけど、僕が推薦してた「夢想百景」は僕とスタッフで買いに行った2時ごろには完売しているのに…その半額のはずのスクミックスは最後まで売れ残った。
前記事「ティアレポ」にも書いたが、同人作家4名の作品(+いくつかの商用作品)をスタバで骨格的に検証した際…蟹丹氏の絵も僕は検証した。面白いことに夢想百景では体のつくりは実物通り守られていたにも関わらず、スクミックスでは完全に崩して書いていた。
全部がひどいという気はない。むしろ一流だと感じさせる部分も残した上で、その絵を飲み込めない「違和感」があるという話。これが僕がスクミックスを語る意味だ。
絵描きが蟹丹氏の絵を見ると夢想百景だろうが、Pixivの絵だろうが、色彩への評価は高い。キャラクターデザインから来る独創性の高さを魅力的だという人も多い。それは本作でも十二分に堪能できる。…が、足りないこともある。
とりわけ酷かったのが「人体への理解」と「静止画っぽくてストーリー性のない構図」なんだけども…別に僕は蟹丹個人を責める気はない。むしろ、こういう傾向が強くて、イラストの魅力をちゃんと定義できずに同人誌を出している「大半のイラストレイター」であったり、「業界の傾向」であったり、「女の子のエロさをわかっていない童貞オタク」であったり…僕が責めたいのはそっちの人間だ。たまたま、蟹丹だっただけで、それはいずれどこかで誰かに向かって言うつもりだったことだ。(※オブラートに包んでいると同時に、そんだけ陥りやすい失敗だということを踏まえて聞いていただきたい)
イラストから生じるエロさは肉が盛られていることではない。僕らはそれを本能的に、体験的に知ってるはずなんだ。中学時代に女子の短パン姿…それも白くか細い太ももや絶対領域に位置する部分…僕らが初めて「エロス」感じたのは女子中学生の足じゃないのか?(※俺の独断と偏見だと思うけど、エロい=むっちりだと考える人はアラサー…だから、自分のお母さんぐらいの人に子どもの時エロいと感じたかどうかを思い出して欲しいんだ。多分多くの人はそんなふうに思ったことないと思う。女子中学生のか細い太ももこそが本当は「エロス」の本質なんだと思う。)
ロリコンを自称したり、生業とする絵師さんの中にむっちりとツル・ぺタ…と皮膚にオイルでも塗ったような質感に仕上げてくる人がいるが、それは「構造的に」間違ってる!!大人の肌の触り心地と子供の肌の触り心地をちゃんと理解していない人…子どものゴツゴツと骨格美を理解していない人が幼女を書きたがる傾向が多々見られるが…わかってない!
蟹丹さんの絵の話に戻ると…すごく太った!被写体がむっちりしすぎて、人体の構造と違うモノに描かれているor人体の構造を理解しているナースさんが見ると「上半身と下半身の発達具合に矛盾があるイラスト」がすごく多い(※夢想百景シリーズにそういうイラストはほとんどない。)
理解できる部分も多くて、女子ってか細い。一般的に萌え絵の題材となるハイティーンの女の子は細いくせに運動能力がやたらとすごく描かれてる。…が実際の女子高生から描いたプロポーションで女子の体の動きを描くと「動きすぎてる」の。思い出して欲しい。筋肉が付いてる女子って確かに足が太く(大根足であり)、胸なんかほとんどの場合ない。(※あるんだけど、健康的な女子の胸っておっぱいの下に大胸筋の下敷きがあるんだって。だから丸みがあって、上に上がってて、胸がないように服の上から見ると見えるらしい)
蟹丹さんの女の子は下半身は「運動部(特にソフトボール部)のJK」の足なんです。魅力的に太ももとか書いてくれる。ただ、上半身が幼児体のままなので、スク水では本来ありえないようなガチムチな仕上がりになる。
前々から思っていたが、僕は蟹丹氏の絵の中で数少ない評価していない部分が「スク水というアイテムへの誤解」なんだと思う。元々アレは「肉がない女の子の肉の質感や盛りを際立たせるアイテム」であると同時に、「裸のような生々しさを隠しつつも人間本来の骨格美(背中や胴の部分)を際立たせるアイテム」なんです。とりわけ、蟹丹氏と僕の見解が違うのは「前」の部分です。
これは表紙になっている絶対領域(と一般的呼ばれるところより少し上目に本作では絶対領域がある)の描き方一つでもわかる。筋肉質に足の筋肉の線まで描いている蟹丹氏がなぜか「靴下と素肌の間の余った肉」を描いてない。
最近の絵師さんで誤解されている人が多いが、体の肉と服が完全につながる服ってありえないはずなんだよ。エヴァのプラグスーツみたいに空気でまとわりつくように調整できるような服でない限りありえない。(※エヴァみたいな設定がされている服はそれはそれで自由度が低いけどね)
服もしくは肉のだぼつきを残して描いている絵こそがエロだったり、自然だったりするんだけど、余計な肉を盛ってみせたり、洋服を過剰にタイトにしてみせるから「へ?」って事になる。
高校の文化祭でも潜り込んだら誰だって一発でわかるお話。(※高校じゃなくてもいいよ。オフィスOLのエロさに付いて語っても結局は「出るべきところが出る演出を洋服でしていること」に気づくはずだ。)
私から絵師さんに一つヒントを言えば…「勝負下着」ってなんで必要なの?だって、スッポンポンでヤるんでしょ?ずらし挿入でもしない限り、普通はスッポンポンでしょ?あと、激しくど突かれてるときに、ブラなんて邪魔なものをします?っていうとこれもしないでしょ?普通。
でも、勝負下着なんだ。脱ぎ捨てるから無意味だと思っていたけど、どうも人間の体の曲線・骨格・質感を活かすのは衣類だと気づいた今、勝負下着がどのように女性の体をエロく見せるのかを研究してみると面白いイラストがかけるようになるかもしれない。
「ハヤテのごとく」の作者だったかな?漫画書くために子供服のページ見て、キャラに着せる服をあれこれと考えてた…って話をしてた人。
服を研究するっていうのは面白いかもなぁ。だって、人間に合わせて服を作る以上、人間の体に演出をかける何かしらの魔法があるわけです。そこを理解できるかどうかの差はエロでも自然でもイラストとしての魅力でも一歩上に行く階段だと僕は思うのよね。
- 蟹丹氏に限らず、物語のある絵は魅力的
これは蟹丹自身が「物語よりも今回は技術論的なことに挑戦したかった」と言っているので、あまり声高に批判しないが、彼の絵は元々は物語がある。1枚絵でだいたいのことは語れちゃうからマンガを描く必要がない。冊子にする必要も…ない。
冊子を出したのは趣味性の大きいところで、先程指摘した「人体と矛盾した演出」を採ったのもおそらくは意図的なものだと思う。(※僕は好きでないし、実際絵にちぐはぐ感を呼んだらしく、本をとっていかない人が出たわけだが)
イラスト系同人誌の弱点は一発で生理的に相性を見抜かれると絶対に買ってもらえないこと。逆に言えば、目立つことによって生じる諸刃の刃こそがイラスト系同人誌なんだけど…ぐるぐると絵師さんの作品を見せてもらうと「生理的な相性」の意味を理解してない人が多い。下手をすれば「綺麗に書く」だけで、それ以上の工夫が見られないケースもあるわけです。
エロさの意味が理解できてない人がひたすら肉を不自然に盛るように、魅力のある人とない人の差は「グラビア雑誌」っぽいイラストにするか、ライブの写真っぽいイラストにするか。端的にいえば「動きを想像させる演出」なのだが…これがないと魅力は半減する。
これは絵に言えることだけじゃない。僕の好きな歌手の曲で「エンターテイメントの命は無限大のイメージ」というフレーズを歌の中に組み込んだ人がいる。例えば、未発達のアイドルグループを好むオッサン達。ジャニーズを好むおばさん達。あの人達ってアイドルの成長とか飛躍に無限大のイメージを持ってるから応援しよう…自分も何かできる・何かしてる気持ちになれるから応援しようというイメージがあるから人気が出る。
たしかに、両方ともポップスとしては邪道だよ。ただ、エンターテイメントとして王道だから、CDが何万個も売れてしまう。陰謀でも何でもない。わかりやすい可能性を与えてくれるエンタメなんだと思う。
こういう価値観はが一枚のイラストにさえ侵食してくる。例えば、絵の中に風が吹いていること。例えば、何かしようとしている途中の合間の動作を描くこと(『猫背になって傘を開こうとしている』『ジャンプしようと膝を曲げている』など)で表現されるものもあるよね。
完成された動作を躍動感豊かに描く。これはこれで良いんだけど、『イラストの魅力』…いや、見る人を引き込む技法としてのイラスト演出で言うと終わってしまった動作・一番ピークの動作を書いてしまうとその先がなく、イラストというよりは写真になってしまう。
僕が思うに写真は時間を保存するもの。イラストは時間を切り取るものだ。写真は過去になるからこそいい。切り取った時間には過去・現代・未来を連想させる機能があり、それをつなぎとめる空間全てを描けるからこそイラストはいい。完全な「点」を残す写真と違って、微妙に時間の経過や次の動作への余韻を残す「線」としてのイラストを意識すると面白いイラストになる。
写真で取ればブレてしまうであろうことも、イラストにはできる。動画と静画の間みたいな部分が描けるとそれが一番イラストらしいのだと思う。
- ぶっちゃけ、モヤモヤするんです。
これが僕の書いた理由なんですが…ぶっちゃけた話が同人誌レビューというよりは彼が踏み入れた方向の先にある議論が僕に言わせると僕が「変だなぁ…」と思いながら避けてきた議論なんです。正直、絵師自身が他の絵師さんを批判するときに僕が言ったようなことを言うんです。『骨格どうなってるの?』『何書いてもこの人以上にならないよね』みたいなこと。
それを絵が描けない僕が言うにはそれなりの理論武装がいると思って、チラリと言っては逃げてきた部分です。
本来こういう記事はアニメーターかイラストレーターがやるべきで僕みたいな絵がかけない人がやるのは「神をも恐れぬ」に通じる部分がある記事です。だけど、コミケ・コミティアで僕の中で「買いたいイラストレイターさん」と「買いたくないイラストレイターさん」の境界線がどこにあるかを知りたくて書いた。
蟹丹氏は本来は買いたいイラストレイター側の人です。僕は多分エヴァンゲリオンの続編と同じぐらいに彼の次回作を楽しみにしてます。(こんだけ酷評しても楽しみにしてるのは本当)
かれこれ5年ぐらいシコシコと同人誌を集めている人だけど、どうも僕の場合は色彩とラインなんだと思うんだ。趣味の問題だから僕の趣味こそが高尚だ…と押し付ける気はさらさらない。だけど、「体は最終的に野菜を求める」みたいな話で、コッテリとわかりやすい技術・わかりやすい演出ばかり見ているとどこかで退屈してくるんですよ。
僕が仲の悪い母親に感謝していることは2つで「美術や登山など、感覚を研ぎ澄ませる娯楽に家族イベントにして教えてくれたこと」と「最高の食育が受けられたこと」なんだ。一人暮らしになって偏食が進むと体から勝手に食べ物を変えるように促してくる。これが職場で居酒屋に入り浸る社内のルールから離れるきっかけにもなったし、一人暮らし中でも健康に過ごせる理由になっている。
多分、僕が書いた理由は「二郎や大盛りだけが魅力のラーメン屋」に愛想が尽きた理由と同じで、「実物とかけ離れた記号的な『アニメ人的なエロス』」に愛想が付きたからなのだよ。
僕が蟹丹さんを溺愛も批判もしている理由はね、彼がいくつもの技法で、いくつもの味の料理が作れるからこそ「食えたもんじゃない!作り直してこい!」と海原雄山的なことを言えるんです。そしたら、山岡士郎みたいに「この、偏屈な頑固ジジイを黙らせてやる」といって本当に美味しい料理を作ってきてくれるんです。
…至高のツンデレになりたい。というか、至高のツンデレが許される環境を整える中川と山岡士郎が居ると僕はそれ以上に幸せなことがない。
「士郎、お前は肝心なことを見落としている」
「フハハハハハ!!」
「女将、私が誰だか知らぬわけではあるまい。」
…モノマネで声に出して言ってみてください。めっさ気持ちいいですよ!
漫画や同人誌読むときにこういう風に読むのは「下卑てる」と思うんです。だけど、こうやって読むと本気で読む。だからこそ、見えるものがある。今回の記事もそういう気持ちでやったから3時間も事前にスタバで議論することができたし、良い漫画を集められるスキルを身に付けたとも思う。…こういう風に漫画を集めるのはコレクター的な立ち位置でマンガ・ラノベを集めている人から見ると「地雷だと分かっていても踏むのがファンの使命だろ」と怒られるんだけどさ。
…とりあえず、完成度は読者の判断にお任せします。私個人としましては高笑いしながら店を出ていく海原雄山の気分です。(※どうでもいいけど、海原雄山が金払ってるところ見たこと無い。見たこと無いんだけど、アレどうしてるの?)
・委託販売始めたそうです。
【夢想百景第一集】
https://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=12444
【SUKU MIX】
両方セットで買っていただけると、僕の言いたいことが大体わかると思います。夢想百景をいい作品として太鼓判を推しますが、僕はあえてスクミックスをセット買ってでいただきたい!!
むしろ、そのほうが面白いんで。