原作も映画も見て、なおかつ聖地巡礼までしてしまったピンポンの大ファンだ。
その僕でも最近始まったアニメ版ピンポンに釘付けになった。
他のピンポン作品を見てない人にはわからないかもしれないが、これはすごいことだ。
まず、原作が短いため映画によってストーリーは知られている。とりわけ、最初の方は原作と映画はほとんど同じだからただ原作と同じことをしても新しさも面白みもない。
なおかつ、マンガの実写化には珍しく「実写の完成度が高く、キャラクターから雰囲気まで一流の役者達が再現済」ときた。だから、既存のファンから見て受け入れられるような作り方をするのはとても難しい。
極めつけは原作は絵柄もストーリーもあくが強い上に古い作品だ。だから、原作をどうやってアニメに収まるようなセリフ・キャラ設定にしていくかも難しい。(原作通りの再現もマンガだから映える絵であるがゆえに難しい)
そのため、単純に「原作通り」ではいけない。
アニメ化するに辺りアレンジが必要だった。そして、アレンジの仕方がとても良かったことからこのアニメがすごく優秀なことがよくわかる。
ところが、ネットで反響を見ると(むしろ再現するのがとても難しいはずの)松本大洋の絵柄を忠実に再現したアニメのデザインを「作画崩壊」と罵る人が多く、頭を抱えた。
ちなみに、こういう感じ。
まぁ、最近の萌えアニメにはないような絵柄だよね。
ちなみに、同時期の2014年春の深夜アニメで特に人気のあった萌え系アニメの画風はこんな感じ。
…少なくともかわいくはないよね…ピンポン。
でも、作画崩壊ではないです。
ピンポンの方の絵のメガネや服の襟元の線が曲がってるのは演出であって、作画ミスではない。
原作もかなり線がぐにゃぐにゃだが、それ自体が他の漫画にはない雰囲気・味、整いすぎないことでかえって人間らしく見えるリアリティを醸し出しているため、見なれないことはあっても、下手と決めつけるのは早計である。
松本大洋(原作)へのリスペクトを感じるアニメオリジナル
冒頭でもちらっと触れた原作のアレンジした部分について触れていく。
前述のとおりあまりにも知れ渡った作品でかつ原作通りでは(短くて)尺が持たないため、原作や実写版のピンポンから次のような改良が加えられていた。
・アニメオリジナルの台詞・設定を上書きする。特に原作では出番が少なく、掘り下げられていなかったキャラにはかなりの量の話を付け加えている。
・(原作がかなり昔の作品だから、)時代が噛み合っていないパートのリアリティの補完。
・卓球アニメらしくするために、卓球に関する造形を発揮した動き・セリフなどを付け加える。
原作のピンポンも、実写版ピンポンも「スポ根」というテーマ性で駆け抜ける作品だったため、実は卓球に関しては描写が雑。
雑は言い過ぎでも、アニメにそのまま持ち込むには動きが単調すぎる。
元々、ピンポンは技術論や卓球論を語るマンガ・映画ではない。
勝った/負けたとか、そのキャラクターとの関係性とか…要するに「スポーツを通じて自分がなぜそこにいて、これからどこへ行こうとしてるのか?」をメインに描いた作品だ。ジャンルとしては「スポ根」と言われることが多い。
実写では特にその傾向が強く、原作で語られていた裏面打法誕生の話をごっそり省いてる。裏面教えたキャラごと映画から締め出してしまってる。(実写しか見てない人のためにいうが、裏面打法を教えたのはオババじゃない)
アニメ版で特に感心させられたのは「ペコの試合描写を手抜きと本気で大きく変えた」という点。
実写では違いがわかりにくかった手抜きして打ってるペコとチャイナに本気で考えて試行錯誤しながら打つペコ(アニメオリジナル要素)を同じ回で、同じ卓球なのにぜんぜん違うことをしているように描いて見事にこのアニメの立ち位置を視聴者に理解させる演出がとても面白かった。
このシーンよろしく、「原作とも実写とも違うことをやります!」と言わんとする描写を設け、しかもそれをやるために実写にも原作にもない独自の研究を重ねているのはすごい!
他にもいくつかアニメの良さが出たシーンがあるので、紹介していきたい。
まず、アニメオリジナル要素である「チャイナの回想シーン」。
これも実写での役割は少なめになり、原作でも主要キャラ5人の中で最も話が少ないキャラにストーリー性や心理の変化をくっきりと加えたのはとても大きな違いだ。
ちなみに、同じことは小泉という顧問の先生にも言える。
実写での彼のキャラと原作のキャラは全く別。キャラの濃さやしていることは一緒だが、イメージがぜんぜん違う。
なので、小泉のキャラの出し方次第でどこに置くかで原作/実写両方を知っている人に違いや作品の立ち位置を表すことができる。
そして、わかりにくいシーンながら「これはこのアニメの立場をよく表してるな」と感じたのが、ペコが先輩を煽るシーンや冒頭の取り留めのない会話シーンなど原作にはない些細な台詞・シーンの追加。
「原作・松本大洋作品研究をちゃんとやったからこそ出るクセのある言い回し」
が、【原作に書いていないのに原作に出てきそうなセリフ】としてきっちり出てくるため、僅かな時間しか見ていないのにアニメ製作会社の熱意と愛情が感じられて驚いた。
「原作・松本大洋作品リスペクトで雰囲気は再現しつつ、アニメとしてより面白くするために色んな付け加える。卓球描写や松本大洋作品をちゃんと理解した上で付け加えるから、映画とも原作とも違うピンポンを作っていくよ。」
そんなメッセージが随所に散りばめられていた。アニメ雑誌やウェブのインタビューなんか読んでないが、アニメを見て察することは十分できる。
そして、「作画崩壊」などと揶揄された、忠実な松本大洋イラストの再現にもその姿勢は現れてる。雰囲気を再現しつつも、新しい絵/シーン、台詞を出すシーンを変えるなど全体像を変えてバランスを取ってる製作者側の意図が見えてくる。
エンディングや電車・ランニングのシーンで出てくる江ノ島や実在する高校から見える風景。…とにかく細部まですごい!
僕はアニメが一話見てべた褒めして当たりだといった作品はそんなに多くない。第一話で、なんの疑問や疑いも書かずになぜ面白かったかを解説するだけの記事になったのはとても珍しい。
このペースで行って欲しい。とても良い。
古い作品なのに、すごく新しいし、よく知り尽くした作品なのに、もっと知りたくなる。それがとってもいい!
原作未読の方には、この「フルゲームの1、2」がオススメです。アニメ化に合わせて発売された分厚く2冊にまとめられた本です。
このアニメは原作見てる方がより楽しめるから原作の購読をおすすめしたい!
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続き。やっぱりこのアニメは面白かったのでガッツリ語ってます。
良いアニメを見ると長文ブログを書きたくなりますね…。いや、ほんといい。
アニメ語り系の記事で久しぶりに本気を出した記事。書き起こしも2つほどついてます。