久々に書評をやる。面白い本がなかったわけでもないんだけど
「書評ごときでわかった気になるな!本文を読まないと絶対にわからないから僕が余計なことを語らない」
というスタンスが板につき、本を読んでも書評をかけない時期が長く続いた。
久々に、書評をやりたくなったのは「この本は面白い。でも、納得できない」という鬱屈した感情を本に対して持ったからだ。
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現物がこちら
このブログを読んでいる人で「サイバーエージェント」という会社を知らない人は多分いないと思う。ピンと来ない人でも「アメブロ」とか「アメーバ」という言葉を聞いたらピンとくるとだろう。
そのアメブロなどのサービスを運営している会社の創業者が起業して結婚する辺りまでのことを10年前に語ったもの。
こんな頭の悪い経営者をほかに知らないよ!
今や「サイバーエージェント社長」の肩書きをみたら「俺、コイツより頭いいわ」と思っても誰も口に出せないのが普通だろう。
でも、そのぐらいすごい会社を作った人の立志伝を読んでも俺が今まで読んできた経営者の中で一番バカだし、会ってきた人間の中でもやっぱりバカの部類に入ると思ってしまった。
そもそも、僕は経営者という響きを聞いただけでカリスマ性みたいなものを見出してしまうため、普通はもっとペコペコしてる。
例えば、ひろゆきでも堀江さんでも三木谷さんでもいい。それなりの会社を作った社長なら戦略論とか生き方のスタンスを聞いていて頭の良さを垣間見ることができる。でも、藤田晋さんに至ってはそう言う部分が全くない。
戦略とか持論をひけらかすどころか…そもそもそういうものをあまり持ってないし、考えて作り出そうとしない。
これは会社のビジネスモデルでさえもそうだが、自分の経験や飛び込んでいった場所で見つけたいいものを引用しているだけ。それを、元ネタを作った人の100倍のバイタリティで拡大するだけ。
愛着のあるオマージュとか、学び抜いた上での傾倒じゃない!訴えられても文句が言えないような丸パクリも含むし、パクリになってないハリボテを平然とやる。
本だからエンタメ感覚で楽しんでいるが、僕が一番嫌いで理解不能な人種だ!
普通、会社作る人は何かしら労働・世の中・専門分野に対する思い入れがあり、それを語る。例えば「休みが多い会社を作りたい」「子どもが数学ができるようになれば、進路が自由に選べるようになるから数学教育を変えたい」「テレビもマスコミも嘘ばっかりだから、高度な情報を発信できるライターになりたい」と一般的には考えるし、就活の際に考えることを強要される。
でも、藤田晋さんは違う。本書の言葉を借りると<21世紀を代表する会社を作る>という子どもじみた夢を、ほかの100倍のバイタリティでやっているだけで、正直なところ中身なんてちっともない。
悪だとは思わないよ?利益を出しているということはそれなりに必要としている人がいるからだし、役にも立たなけりゃ仕事さえもらえない。
金が役立つかどうかの全てだとは言わないけど、人は必要も用事もなくお金を払ったりしない…という現実もある。
「役立つというハリボテのイメージにお金を払ってるのかも…」と言う指摘もできるけど、その手のハッタリを全部禁止するとまともな会社でも成り立たなくなるからあまり意地悪は言わないでおこう。
でも、世の中は正しいものや新しいもの・役に立つものが評価され、生き残ると思われがちだけど、…この会社の立志伝を読んでると、そんな幻想は崩壊するね。
じゃあ、藤田晋さんが成功できた理由は何?
先程から触れている「100倍のバイタリティ」だよね。朝から晩までどころか、会社の住み込み状態で仕事をすること…を当たり前にできること。
また、人を集めたり、その働き方を評価してくれる環境に恵まれる人徳・人脈・人たらしの術…がすごくうまい。
これは「騙されない」「失敗しない」という意味ではない。失敗してミスマッチな人材を採用して失敗したり、かなり手荒いことをやって離職率をあげたりもしてる。
でも、本書の言い方を借りると「先入観がないからNoとは言わず、人や仕事を引き受けるのでチャンスを逃さない」ので、得るものを得て急成長したそうな。
「失敗を恐れない」という言い方が正確なのかな?「失敗してもへこたれない程度にメンタルが強い」というのが正確なのかな?普通の人なら縮こまるような失敗をやらかしても、懲りずに色々なことを試みる人だ。
ユニクロの社長の本で「一勝九敗」という本が有名になったことがあるけど、経営者の成功する秘訣は「負け越していても10回登板すること」なのかもしれない。それは他人から見ればすごーく簡単なことかもしれないけど、人間関係が悪くなったり、自分のメンタルが滅入ってしまって並大抵の人にはできない。
戦略・戦術・理念を語ることは多少なり勉強すればできるけど、バイタリティやタフなメンタルは鍛えようと思って鍛えられるものじゃない。
頭のいい人がこの本を読めば、理に(も利にも)反する。セオリーや成功法から言えば、こんな会社・経営者が増えて欲しいともなりたいとも思わない。そもそも、狙ってなれない。(ほとんどの人は下積みの段階であまりの理不尽さに病むか、馴染めなくて違う道を目指すような道だ。)
でも、野心と鍛え抜かれたメンタル・いい仲間にめぐり合いその人を大事を大事にできる/大事にされるような人だからこそ、できたのかもしれない。
結局、仕事は人間関係だ。仕事内容が好きでも上司や関係者と考え方がズレれば、続かない。一番長い時間を費やすことなのに、嫌な人間といるのはやっぱり辛い。
戦略とか、チームプレイとかを強調した経営書はいっぱい見るが、この本はそれらとは違う意味で輝いている。もっと根本的で人間的で、個人の視点で描かれてる。
経営者として人材に対して強い意欲と興味を持った社長の著書だけあり、会社とミスマッチな事例についても、ベンチャーという場所での働き方についても詳しく言及されている。
不愉快だし、頭がいいとは決して思えないけど、大事なことが書いてある良著だと私は思う。もう古典なので、電子書籍にもなっている。さらに、運がよければ古本屋の100円コーナーにあるような本だ。
でも、若い人にはむしろ仕事とはなんぞかという本質をつかめる本の1つなので、是非とも手に取って読んでもらいたい。