斬新な映画を見たので、その話をしたい。
見たのは「刑務所の中」という映画で、実際に逮捕された筆者が出所後に刑務所の生活をマンガ化し、その原作を元に映画が作られた…と言うもの。
お分かりいただけただろうか?
出演している役者がものすごく豪華なのだ。
私が「この人が出ている映画は全部見たい」と言うほど演技力の高い山崎努、「孤独のグルメ」シリーズでなどで有名な松重豊、「半沢直樹」の大和田常務で有名な香川照之…まぁ、誰か一人が出ているだけで1本の名作ができてしまうのに、映画3本分にも4本分にもなるような演技派キャストでこの映画が作られている。
映画のキャスト紹介については出演した作品ばかり取り上げるだけだが、ここに挙がっている人レベルになると「この映画のこのシーン、この役者の〇〇してるシーン」と言ったレベルで演技の巧さが指摘できる。
ドヤ顔で剛力彩芽とかをキャストの売りにしてくる某ヒーロー映画と違って、「邦画界が誇る神々の宴」のレベルの豪華さだ!
あらすじなんてものは書きません!もう、今の日本でこれ以上の役者・これ以上に演技力の高さを感じられる映画を他に挙げるほうが難しいので、映画が好きな人を絶対に満足させられる映画だ。
話なんて、役者が揃ってしまった時点で要りません!早く語らせてください!!!
あらすじを語らなかった本当の理由から語るね
半ば勢いで押し切ったが、あらすじを語った本当の理由は「あらすじがない」からだ。刑務所での生活を淡々と送っているだけで、別に起承転結も何もない。脱獄を企てたやつと刑務官が戦うようなシーンもなければ、出所した嬉しさから豪遊したりとか…そういう喜怒哀楽や、エンターテイメント性が伴うシーンは殆どない!
起承転結が特になく、刑務所の中での話が映画の95%位を占めるため、ヒロインもいない。女という女が出てこず、敢えて言えば雑誌に載ってた絵や写真でしか出てきてない。
余計な混じり気もなく、淡々と受刑者の目線に立って刑務所での生活が描かれ、だんだんと頭のなかが受刑者と同じような感性に近づいていってしまう不思議な映画だった。
そして、刑務所の中の小さすぎるできごとを時に楽しそうに、時に横行に高い演技力で表現してくれる所がこの映画の全てだ!単なる情報としてではなく、じっくりと「演技力」を楽しんで欲しい。
最近の流行語で言えば、「日本よ、これが映画だ!」というやつだ。派手なこと、新しいこと、見たことないことを移すのが映画じゃない。スクリーンから伝わってくる臨場感を味わって欲しい!
ライフスタイルとしての刑務所
役者の演技力の高さもあり、受刑者の一人になって刑務所の中での小さな日常に関心を抱いて映画を見ているような状況に陥る…これがこの映画の醍醐味だ。
例えば、刑務所の中で一部の囚人がお菓子を食べながら映画を見られる人があるのだが…そのお菓子が「アルフォート」と「コーラ」なのだ。…シャバにいる僕らにとってはそんなに豪華なものでもない。だが、アルフォートを美味しそうに食べて、自慢気に語る奴がいる。
そして、映画はテレビのようにチャンネルを変えて遮ることができないので、自分も同じ房の受刑者の気分で、そいつの自慢話を聞く。そうやって刑務所内での贅沢の水準に立って物事を見聞きするようになることが…この映画の不思議なところ。
刑務所というのはとても不思議なところだ。監視もされ、時間通りにキビキビと軍隊のようにいちいち命令通り動かないといけない。
少しでも違う行動を取ろうと思ったら、作業中である場合は「願います」と手を上げて看守に指示を仰ぐ。消しゴムを落としただけでも指示を仰ぐような堅苦しい場所ではある。部屋にいるときはボタンを押して用事があることを示し、直立不動で看守を待つ。
独房から歩くときは「1!2!」と大声で声を上げて行進。走るときは腰に手をあてて駆け足。小学校と軍隊の間を取ったような窮屈極まりない世界だ。
ただ、ネット上でたまに流布されている通り「刑務所にも休みがあり、残業もなく、定時で終わるし、三食のご飯が出る」ため、変な会社で働くよりも健康で文化的な生活が送れる。
たしかに、食って寝てるだけの状態を「生きている」と呼ぶならば、そこは楽園だ。恋人どころか、異性と会うこともできないし、好きな時に好きな場所へ行くこともできない。でも、死ぬほど働かされることもないし、一人で生活しているよりもまともな食事が食べられて運動する時間も与えられる。
特に、ご飯はしっかりしている。ご飯の量はさほど多くないし、決して高級なものも出てこない。しかし、大晦日と正月には少しだけボリュームアップするし、パンの日まである。
最近まで、刑務所ライフを満喫していた堀江貴文さんも、堀江ファンの情報によれば「刑務所にいた時のブログやつぶやきはとにかく食事のことが多かった」らしい。
働き者の人にとっては定時で仕事を取り上げられてしまう寂しい場所でもあったそうだが、働くこと自体が好きじゃない人には労働基準法が定めた通りの「最低限度の労働」だけで済むため刑務所暮らしに馴染める人もいる。
まして、家で作るよりも食事が美味しく、夜は同じ房の受刑者と話せるのだから、決して現代人よりも幸せな生き方かも知れない。
逆に刑務所は共同生活の場でもあるため、僕のようにオタクで一人の時間を大事にしたい人間にとっては「うわ、俺は独房しか居場所がねーよ!」「好きな映画もアニメも遠くに出かけることもできない人生なんか嫌じゃ!」と感じる。
刑務所という言葉や、囚人という概念に対して何かしら強い情念を持って見てしまう方がいるようだが、感じたことをそっくりそのまま特に色眼鏡を加えないで描かれているため、とても頭のなかで整理しやすかった。
だからこそ、何かのメッセージ性や社会派という形でこの映画を見てもらいたくない。もっと「人間とは」「映画とは」という広い視野を持って見てもらえれば、映画を通じて得るものが大きい。そこに着目して欲しい。