この間読んだ本「渋谷ではたらく社長の告白 藤田晋」がとても心のなかでグサグサと突き刺さるものだったので、藤田晋さんの本を近所の古本屋さんの中で探してきた。
前回の書評の際、和田一郎さんが薦めてくれた「起業家」という本も確保済ですが、先に読んだのが見城徹さんとの共著であるこちらの「憂鬱でなければ、仕事じゃない」という本。
でも、極めて藤田さんらしい(いや、見城徹さんと共演することで更に濃厚になった)極論と無茶ぶりと若干頭の悪い自慢で構成された本なので、とても楽しく・時々不機嫌に反論しながら読ませてもらった。
本音むき出しだからこそムカつく&つまらん
はっきり言って、好き嫌いが大きく別れる本だ。悪い宗教にしか見えないような一辺倒ぶりと、老害の小言にしか聞こえない説教臭さ、明日から真似すれば各方面からクレームが来るか実践不可能で人間が疲れ果ててしまうような無茶ぶり…その数々が綴られた本だ。
使えるエッセンスは確かにあるし、そこに綴られている言葉も確かに力強い。
でも、いい意味でも悪い意味でも本音がむき出しすぎて「エンターテイメント性」みたいなものはない。
経営者の本の多くは「自分がどれだけ努力したか」じゃなくて、「自分が何を大事にしているか」「どんなことを考えてビジネスをしているか(すべきか)」というところを重視しているものが多い。そういう話の方が批判されることも少ないし、他の社長さんとの違いを説明できて自分のカラーが残るからだ。
言っちゃ悪いが、大規模に会社を大きくしたような創業者はみんな泥臭い仕事や、無謀な勤務・労働を自分の会社を維持するために一度は経験してる。だから、社長同士ならば「ああ、俺もやったよ」という当たり前の話で、会社を興さない一般の人からしたら「なんて野蛮で頭あの悪いことをいう人なんだ」「何?自慢しているの?」と感じるし、ネットなどの書評ではそういった意見で罵られる。
要するに「ウケない話」なのだ。書き方次第ではすごいと評価してくれる人も、熱い何かがこみ上げてくる感動の話にも思えるが…冷静に読んでいるとどう見ても頭が良さそうにも、知的な刺激も受けない。
藤田晋氏はその「泥臭い仕事」や「無謀な勤務」の話を本の中に進んで書き込んでくる珍しい経営者だ。そして、見城徹さんはそれを行動や人付き合いにまで露骨に出してくる経営者だ。
その場ではそれなりのお人柄なのかもしれないが、本を読んでいる限りは気難しかったり、几帳面であることを「強いられる」気持ちになってとてもお付き合いしたいと思えない。
経営者とはテストでオール5を取るような人種よりもむしろ「5で収まってやるからありがたく思え」という科目を1つ2つ持っている人、「成績のために勉強なんかしねーよ!」と学生時代には大した成績を取ってないけど馬力だけはある人がなることが多々ある。
この本に於けるものがまさにそれだ。ビジネスマンとしての貪欲さをビジネスのことを生活の中心に据えて、自分や他人に対するアメとムチ、付き合い方を考えて行動しているさま、一般常識では考えられないような粘着で恥ずかしいようなことも仕事を取るために思いついて実行してしまうバイタリティー。
語っているのはそんな内容だ。「面白い話」をして読者を良くも悪くもあしらうことはできたかもしれないが、敢えて不愉快で反論したくなるような経営者としての生き方・仕事論をぶつけあって本にしている。
本のタイトルを今一度見てみよう
「憂鬱でなければ、仕事じゃない」
そりゃそうだ。楽な仕事はロボットにやらせればいい。悩むほど考え込めば、仕事だろうが、趣味だろうが、自分のしていることは不自由で憂鬱だ。
でも、そのぐらい真剣に考えてない趣味や生き方は楽しいか?
例えば、「子煩悩」という言葉がある。子どものことばかり考えている親がいる。休日に子どものために出かけないといけなかったり、子どもが小さいうちは怪我をしないように些細なことにも気を払って一緒に行動する。
でも、それをやっている当事者に「子どもなんきゃ産まなきゃよかったと思ったことがある?」と聞くと、絶対にいいえとは答えない。子どもがいるからこそ楽しく、子どもがいるからこそ悩む。そんなことを語っていた親を僕は知ってる。
「憂鬱でなければ、子育てじゃない。」というわけだ。土日にどこにも連れて行かないこともできるだろうし、進学先や勉強も丸投げしようと思えばできる。でも、それじゃ彼・彼女は子育てをしてるという実感もないし、義務を達成した安堵感もない。
言うならば、この本は「経営煩悩」「ビジネス煩悩」だ。
ビジネスのためにこんなことをしてます、こんな習慣を実践してます、こんな人とは付き合いたいけど、これができない奴とは一緒に働きたくないです。…儲かる・儲からない、取引や仕事を成し遂げるための試行錯誤をして、人一倍の成果を生み出さないと彼らは「仕事した」という達成感や安堵感に包まれない。
一般の人からしたらバカらしい話だ。経営者達が「10万円の料亭に行けくなかったら隠居する」とか「いい仕事をしたら高いワインを飲みたい」(両方とも本書にある)というに見合った大仕事をすること、そのために四六時中仕事のことで頭を抱えて憂鬱になる生活なんて、一見すれば「金の亡者」か「仕事ロボット」だ。
でも、こだわりが強い人・何かを成し遂げたい人はすごい。その仕事を成し遂げるために自分が抱え込む責任感も、責任を果たすためのバイタリティも人一倍だ。
この本には斬新な経営改革も書いていなければ、楽して儲ける方法も書いてない。
でも、本気になった人間のムキ出しのやる気とだからこそできる思い切った行動が読める。
それをぜひとも味わっていただきたい。