じんわりと溢れてくる感情の波に、僕はただ画面の前で両手で鼻を覆いながら泣くことしかできなかった。
目を赤くして溢れてくる涙とぐちゃぐちゃに混じった感情と思考から目をそらすことができず、止まったゲーム画面の前で泣いた。
はじめはキャラゲー・雰囲気ゲーだと思った。ところが、終わってみると物語全体が一本の線できっちりと結ばれた高度な文学作品!
実際に落涙したことはもちろん、シナリオ全体を見渡してキャラクターに思いを馳せたら「尊い」とさえ思えるほど澄み渡った気持ちになれる…すばらしいゲームだった。
あらすじは敢えて書かない。「ゲームをキャラクターに丸投げされて何をすればいいかも良くわからない感覚」を楽しんで欲しいから!
ちなみに、キャラは全キャラ作者の描き下ろし。タッチや世界観を示すためにも好きなキャラを1枚。
無駄がなく、それでいて全てに理由がある血の通ったゲーム
まずは、公式に書かれている概要を引用から。
彼女たちの長所を活かした戦い方をして、
新しい女の子を仲間にしてあげてください。
そして、彼女たちの主に会うことがこのゲームの目的です。
一週目は、少女を育てるゲームです。
二周目は、彼女を知る物語です。
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何度読んでも、「一週目は、少女を育てるゲームです。二周目は、彼女を知る物語です」は完璧な説明だ。
はじめて読んだ時にはちんぷんかんぷんだったが、終わってみるとこの説明がいかに完璧だったか今ならばよくわかる。
このゲームはけっこうな人数の「少女」が出る。その少女達がRPG形式で戦ってステージをクリアしていくゲームだ。
共通したキャラクターの特徴
最近の創作物ではよくあることだが、このゲームに出てくる少女達はベタベタに「記号的なキャラクター」だ。
中二病のやつは正しく中二病だし、魔女っ子は正しく魔女っ子らしい。ギャップ萌えなんて変化球はなく、わかりやすいほど嘘偽りなくキャラクターであり、わかりやすいからこそ愛でやすい。
また、技名やキャラのRPGの能力としても色濃く反映されているため、ゲームとしてすごくわかりやすく、キャラも立っている。
だが、ゲーム自体はむしろわかりにくく、序盤には「何をすればいいか」さえ正直よくわからない。
特に物語はしばらくの間わかりにくくてしょうがなく、「何がいいたいのかわかんない不思議ちゃんポエム」「誰に言ってるかわからないセリフの数々」が並んでいる。
その中でキャラクターだけが驚くほどわかりやすく、わかりやすくてブレないからこそ愛着が湧くし、キャラ同士が違うことにも気付かされる。キャラクターについて言えば、そこらにあるゲームやライトノベルでもやり尽くされたオーソドックスな作品の作り方をしている。
「ツンデレはツインテールが基本」「幼なじみは基本的に世話焼きで少しだけ姉貴肌」みたいな暗黙の了解があり、それがあるからこそみんなにわかりやすい人気のキャラが作れる。良くも悪くも「お決まり」である。
しかし、この作品の場合よくできたところは「記号的なことにきっちり理由を設けたこと」にある。
そして、その決まり事を知ること・解き明かすこと自体がゲームであるため、ゲーム自体に無駄なもの・理由が存在しないモノがない。
わかりやすいはずのキャラ達が物語に繋がるセリフ喋ってる時、物語の一部として彼女らを説明されるときにだけは不思議ちゃんみたいなポエムや主語がわからない言葉をしゃべるのか?
モヤモヤと不思議な世界・よくわからないゲームの中で不思議な世界と文と、手応えのなさと…それらの向こうに理由ある理由を知るために少女を育てながらRPGを突き進んでいくゲームだ。
一周目ではこのゲームの謎を解く上で必要な記号と手がかりと空想と連想を集める。
二周目ではこのゲームの中にある「理由」を回収する。
それ以降もゲームは実は続くが…理由を知らない時と知った時でゲーム自体の見え方の違いを楽しんでもらえるといいんじゃないかな?
理由がわからない世界でもがく感覚、革新に迫りつつある手応えを楽しみ、理由を知った後に自分が誰かに語りたくなってる革新を確かめに行く楽しさ。
それらが一つのゲームの中に圧縮されている。そして、知れば知るほど、心にじーんと来るような感動と、頭の中で理由を積み重ねていく達成感に溢れていく…それを味わってほしい。
理由があるからこそ、きっちりとした演出ができる!
このゲームはイラストや物語もさることながら使われる音楽までもが独特の特徴があって引き込まれる。
ほとんどのフリーゲームはフリー素材を積み重ねて使われる。
だから、イラストや音楽には「よく使われる定番の素材」が存在する。
だから、違うゲームをしているのに「同じじゃないか」「ありふれたBGMばかりで特別な感動がわかない」ということがしばしば起こる。
しかし、このゲームは作り込まれているからこそ、変わった素材に手を出してBGMでも目新しくなるような挑戦をしている。
その中でもそこまでフリーゲームでは使わない「こんとどぅふぇ」というサイトの音楽を多用してることに言及したい。このサイトのが既視感をなくして、とても斬新に気持ちよくゲームに感情移入させてくれたことがとても良かった。
こんとどぅふぇのサウンドはとてもファンシーな曲が多いため、固めな世界観のRPGやSLGにはあまり用いられない。BGMと言うよりも劇薬として曲の印象が残ってしまう。そのため、世界観が明確でない・噛み合わないゲームでこのサイトの素材を使うのは難しい。
しかし、イラストにもテキストにも明確なカラーが存在するこのゲームではかえってこのアクの強さ、コテコテのRPGっぽさがないことがいい方に作用した。
ReincarnationはRPGという様式で、RPGとしての難しさや仕掛けも決してぬるいわけでない。
しかし、RPGっぽい「いかにも魔王と勇者が出てきそうなゲーム」ではない。だから、「RPGっぽい曲」は合わない。合わないだけではなく「世界や物語の謎」に迫って行く話であって「敵をやっつけてみんなハッピー」という話じゃないから合わない。
女の子が不思議な世界、謎だらけの世界を冒険する話だから、女の子の冒険に合うようなかわいさと、世界観の謎を静かに見渡すような、意味ありげなステージに足を踏み入れるような落ち着きのある曲、謎めいた曲が必要になる。
この辺についてはゲームをちゃんと終わらせると明確な理由がわかるように、わかればスッキリするように作り込まれてる。
理由がわからない時でも音楽選びがきっちりしてるから「キャラを立たせるような個性的な音」「ゲームの不思議な世界に引き込むような音」「物語やキャラクターが尊いと感じるような透き通った音」がそれぞれに当てはめられていて、コレもまたゲームで泣けた理由の一つになった。
いや、音楽に限らずにこのゲームで「泣いた」のは理由がある感動を頭の中ともっと前のめりになった無意識がしっかりと理解できたからだ!
(相手がわからない、一度目にはよくわからないセリフや説明)の理由がわかった時にキャラクターの意思や、イラストやBGM、キャラの技名、ステージなどに気づいたからだ。
ムダがないが、単純でもない。
クリアすること/知ること/考えること/知りたくて、前のめりになっていくこと/自分なりに「人に語りたくなるような結論」を見出したこと。
話の切なさやキャラクターの魅力だけじゃない!
洗練された作品をきっちりと理解したい、その洗練されていることを話が全部わからなくてもイラストやBGMを「コレじゃないとダメ」な具体的なものを作り上げたこと。作り上げられたものに向かって行こうとする気持ちを自分がゲームを進めていくうちに作られていく。
その過程が思考や記憶として押し寄せるから感極まるんだ…。
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戦略ゲームのように見えて、終わりや話はきっちりと文学めいてるのでかなりやりがいがあります。