なぜ「やりがい搾取」は起こり続けるのか?

 

こんなニュースが話題になってた。

韓国の2014年の流行語は「熱情ペイ」「IKEA世代」

ここで扱われている「熱情ペイ」とは日本で言う「やりがい搾取」のことだ。

熱情は情熱、ペイは支払いのPayで「情熱があればお金なんていらないだろう?」と労働力を買い叩く企業を皮肉った言葉である。
またIKEA世代と言う言葉もまた韓国の若者が使い捨ての粗雑な家具を「長く使う気がない人が安価に買い叩かれる若者」と引っかけて生まれたそうだ。

ややこしいのは「やりがい搾取」と言う言葉は楽しい仕事に対して多く使われること。

確かに楽しそうな仕事・趣味がこうじた仕事で起こりやすいが、むしろ業種に関係なく「不当労働や余分な仕事・接待を楽しいと言わせ、それを理由にお金を払わないこと・長時間人を突き合わせるのを正当化してる」企業体質を批判する言葉がやりがい搾取や熱情ペイである

日本にもやりがいばかりを売りにして、給料や労働者の権利をないがしろにする会社や経営者を批判する「やりがい搾取」と言う言葉が昔からあった。

でも、マスコミの関心が恐ろしく低くネットを使わない人からは知られていない。

ネットと社会学者の間では「やりがい搾取」という言葉は知られてる。

言葉自体は本田由紀さんというれっきとした社会学者が提唱した概念であり、ネットスラングではないため、一般紙で扱っても全く恥ずかしくないはずだ。

ところが、ネットで検索してみると驚くほど扱いが酷い。

Wikipediaの記事すらなく、マスコミでも取り上げられないから検索してもイケダハヤトさんのブログやはてなキーワードがトップに来る。

ビジネス系ニュースサイトも出てくるが、大半はブロガーかウェブに明るいライターが書いてるだけで、(この記事を書いた2014年時点では)ネットの外では浸透していなかった。

2016年12月13日追記:新垣結衣さんが主演するドラマ「逃げるが恥だが役に立つ」にて言及されました。

#逃げ恥 に出てきた”やりがい搾取”がド正論すぎる「ブラック企業に聞かせたい」 – Togetterまとめ

マスコミ…つまり、4大新聞の関連記事もなければ、日経も地方紙出ない。
冒頭のリンクも「日経」だが、日本にも同じ言葉が存在することに対して触れてない。

ここにやりがい搾取という価値観がネット以外で浸透しない理由があるのでは?やりがい搾取の解説かねがね書いてみよう。

 やりがい搾取が起こる国には大きな格差と脆弱な社会保障

結論だけ言えば「富裕層・お金のある世代の都合で若者を好きなようにできる環境」がやりがい搾取を生じさせる。

具体的には
・社会保障の脆さ
・法令遵守がなされない(教えられない)環境
・高い奨学金や学費のせいで若者は嫌でも働かないといけない

など、とにかく今・将来にまでお金のことで追い回されるような社会制度・慣習がまかり通る国で起こる。

現に日本や韓国は特に世代間の格差や、若者の貧困がひどい国だから、やりがい搾取が問題になっている。

そして、アメリカでも…例えば、マイケル・ムーアの作品にもそんなシーンがある。
名前こそ「やりがい搾取」とは言わなかったものの、低所得者なパイロットの実情と、パイロットが人命を救ったヒーローとして議会に呼ばれた際に、議会に実情を陳情し始めた途端に急に議員たちの反応が急に冷たくなったさまが描かれている。

そして、この3カ国は有給消化率でもワースト3の国でもある。

参照:世界の有給休暇消化率をランキング形式で発表! | TRIPPING!

やりがいを搾取されてるのは給与面だけではなく、「生活を犠牲にしてまで働く」という1つの文化や美徳にまでなっている。
ちゃんと休むことよりも会社に迷惑を書けないことの方が強く優先されてしまっている。

ここまでは、日米韓3カ国共通。
でも、ここからが違う。

日本では企業やおっさんが搾取してる自覚がない

大きく違う所は「そういった社会のあり方に批判的な意見が飛び交うのが米韓、マスコミでは核心を突かずネットのみで共有されるのが日本」というのが大きな違いだ。

韓国では貧富の差を大きくするような政治的決定には大きなデモ・むしろ暴動に近い攻防が飛び交うし、酷い決定をしては大統領が必ず犠牲になる。(韓国の歴代大統領は毎回毎回逮捕される)

また、アメリカではマイケル・ムーア以外にも社会批判・企業批判をする映画がたくさんあったり、露骨に批判しなくても、貧しい人が大企業やインテリと戦って勝つようなストーリーになっていることは多々あるわけで…。

でも、日本の場合はマスメディアや、ドラマ・フィクション…あるいはデモを見ても韓国やアメリカほどには大企業を悪者扱いしてない。

「報道してない」とは言わない。
だが、一部の弱者・ブラック企業の悪行として扱うことが多く、社会システムがやりがい搾取を許していることをそもそもキチッと考えてもないし、議論すら盛り上がってない。

先ほども述べたが、やりがい搾取が起こりやすい条件は
・社会制度が脆弱で将来の不安がいくらでも挙がる環境
・大学を出た時点ですでに借金をしている・新卒ならともかく中途半端な勤務期間で会社を抜け出せばとても再就職も返済も難しくなる
という事情もあること。ブラック企業だろうが、やりがいで搾取する仕事だろうが嫌々勤めてる・勤めて病んだ人がいっぱいいる。

しかも、日本の場合は訴え方や手続きについて習う機会も少なかった人が不当労働の現場・働かざるをえない立場に追い込まれるため、抜け出したいと思っても抜け出す方法すらわからないことも多いことが輪をかけて若い人・搾取されるほど立場の弱い労働者の状況を悪くしてる。

でも、報道のスタンスは社会の問題じゃなくて「ブラック企業が悪い」「こんな若者がいる」と個別の、レアなケースであるかのように矮小化されてる。
「こういう風潮・空気・同調圧力がある職場が複数あって、それが働き過ぎや労災を生み出している」みたいな話には、ほぼならない。

日本のマスコミは殴る相手にはとことん殴るくせに、絶対に殴らない・予定調和のプロレスのように弱々しくしか叩かない相手が多く存在する。

例えば、テレビをもっともよく見るバブル~団塊の世代。基本的に彼らの悪口は出ない。

例えば、今成功してる企業。特に日経スペシャルの番組がそうだが、「こんなの」と思うものも褒め称えるような取り上げ方をする。

例えば、支持率が高い政権。解散総選挙が行われるまではアベノミクスの批判は殆ど出ず、かつての小泉政権もまた政権当時は絶賛され政権から降りるまで批判・問題視の声は本格化しなかった。

だから言いたいね。
「搾取している世代も企業も、そもそも批判されてないからそのことにさえ気づいていない。
気づいていたとしても、批判されてないことで変える空気すらない。」
本当に良くない文化だと思うが、その企業が非正規雇用で儲けていようが、やりがいを盾にして不当労働をさせていようが、「勝っていれば正義」という空気がある限りよくない風習は変わらない。

また、メディアも勝ち馬に乗る風潮が強いから、やりがい搾取の現場はほとんど報道されず、テレビしか見ないには話が通じない。
ブログやTwitterで話している人は「みんなが知ってる」というほど普及した言葉としてやりがい搾取やその他の若者の貧困問題・世代間格差・日本の労働観の非常識さなどを語るが、実はネットとテレビ、ロスジェネ世代以降とバブル世代以前で認識に大きな差が生じている。

言葉を知らないし、知らないから検索しても年輩者には馴染みのない個人ブログやネットニュースの記事ばかりが出てくる。

だから、昔通った「やりがい」という言い回しが搾取だとも思わない人がずっと「やりがい・やりがい」と言い続けるし、その人にネットや若者が発した批判が届かない。

この辺りの溝をどうにかしないと変える空気にすらならないんだよなぁ…。
アメリカや韓国は確かに日本よりも酷い制度や格差はあるけど、その事に言及する人・表立って言える空気がある。
でも、日本の場合「ネットでしか言っちゃダメ」という空気がある分だけなおさらたちが悪い…。

やりがい搾取が初めて出てきた本だそうです。

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ありがとうで搾取してる企業の話。

「世代間格差がいかに若者のやる気を奪うか」を5枚の図で説明する! – かくいう私も青二才でね

資産の大半は60歳以上が持ち、選挙をすれば、団塊の世代は若者の倍の人数。そりゃ、政治家も当選したい人は高齢者に媚びていくよね。

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