なかなか、めんどくさいゲームにぶち当たってしまった。
※このゲームは「ゲーム性」と呼べるゲーム性がほぼないから、ゲームの物語をネタバレした解説/考察のようなレビューになります。それでもいいよという人だけお読みください。
戦いどころかアイテム欄もなく、選択肢分岐もほとんどが意味なし
この際だから言っておくが、このゲームを作ったサークルである『リンネ堂』のゲームはゲームではない!!
というよりも、「ゲーム」というユーザーが操作性やシステムなどほかの受け身なメディアでは感動できない部分に感動する要素はほとんどないため「ゲームとして」語ることはほぼムリだ。
人気が出たからと言ってRPGツクール開発部は獄都事変という人気ゲームのスピンオフ作品でしかない「FILAMENT」を、あろうことかRPGツクールmvのサンプルゲームの一番目に置くという暴挙をやらかしている。
だが、…このゲームは決してゲームとしても標準的じゃないどころか、ゲームとして評価すれば、下の方から数えた方が早いクソゲーである。
じゃあ、このゲームをどのように定義するか…「ゲームを再生機として扱っただけの物語絵本」とでも言うべきだろう。
逆に言うと、「物語を表現する上で」はゲームでなければ伝わらないのだ。
アニメやマンガではエンディングの分岐点は表現できないし、殺風景すぎる日常世界を描いた日には退屈すぎて死にそうになる。
でも、ゲームならばそれが許される。だからゲームを選び、ゲームで物語が表現されている。
そのため、ゲームをゲームとして楽しみたい人にはとてもオススメできない。
だが、物語としては高度であるため、物語を楽しみたい人はこのゲームをプレイする価値がきっとあると思う。…「わかれば」の話だけどね。
ブラウザからもプレイできるので、それでもやりたいと思った人はどうぞ。
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このぐらいの断り書きを書かないといけないほどにはゲームとしてはシンプル過ぎてゲームとしての楽しみを見出しにくいゲームなのだ。
選択肢分岐も少なく、キャラも決して多くなく、笑いやツッコミ要素のあるネタがあるわけでも探して楽しむことができるわけでもない。ミニゲームやバトルもなければ、アイテム欄すらない。
ただ、手当たり次第に話しかけて、キャラクターが喪失した記憶を呼び覚ますだけ。
呼び覚ますまで手当たり次第に話しかけて行くだけの「作業」。これがゲームと呼べるのか?とゲームが好きな人間ならきっと感じるであろうシンプルなゲームだ。
そもそもどういう話?
交通事故に遭った主人公が喪失した記憶を取り戻していく話。
生きてもない死んでもない昏睡状態の主人公が、あの世とこの世の間にある病院の中で入院生活を送る。
7日間の間に記憶が戻らなければ、死亡するらしい。
ゲームとしては記憶を4つ思い出したら、最後に自分の名前を思い出す。
いや、思い出すのではなく、最後の最後は当てすっぽうで自分の名前を引き当てる。
でも、記憶が4つ揃ってないと本当の名前が出ない。
記憶を揃えるところに、気の利いた普通のゲームならミニゲームやアイテム、高度な推理を要するが…それすらしない。ゲームとしては不親切かも知れないが、『物語を優先するからこそムダなゲームを入れずに作った作品』とも言える。
また、仮に記憶を4つ見つけても見られるエンディングも5種類それぞれのセリフはさほど変わらない。正規のエンディングすらあっけなく終わる。
辛辣に言えば、ただ名前を一致させるだけの話。それも最後の最後は当てすっぽうで。
それが違うと、洋服の好み、洋服から連想される性格が違う人間として生きていくことになるだけ。
創作上の「名前」や「服装」の意味をちゃんと理解してないと、このゲームは本当に「何がしたかったのか」と感じるほどの駄作に思えてしまう。
そのぐらいにシンプルなゲーム。
創作上の名前は親が勝手に決めたものではなく、キャラそのもの
今回の作品では「名前」はそれほどわかりやすいメタファーではない。(名前で分岐するけど、名前からしてわかるような名前にはなってない)
むしろ、わかりやすくキャラクターの役割や特製を定義することも男性向けの作品だと多く、特に小説から生まれた作品はこの手法が好きなので、2つ例を挙げたい。
1つはマルドゥック・スクランブル。
この作品主要キャラは全員卵にまつわる名前でできている。
バロット→雛料理。その名の通り、純真さから幼稚さまでありとあらゆる幼いからこそ持ちあわせた特徴を持ってるキャラクター。
ウフコック→煮え切らない奴。その名の通り、優柔不断でもあり、冷めた性格の持ち主。
イースター→イースターエッグをモチーフにしたであろう名前。コンピューター用語にもイースターエッグというものが存在するように彼は技術者であり、本来の「飾りが施された卵」という意味のように陽気な人物でもある。
他にも、シェルやボイルドなんて名前もあるように、キャラクターは名前の通り定義づけられて、名前のように物語をこなしていく。
もう一個は「落第騎士の英雄譚」というライトノベルから。
黒鉄一輝→一瞬だけ強くなれる技を使う。
ステラ・ヴァーミリオン→炎使い。
黒鉄雫→水使い。
能力バトルをメインとする作品だから、この作品の場合キャラと使う能力がかっちり一致するように作られてる。
女性向け作品だと名前が果たす役割を洋服にさせる。
あるいは、「名前をつけたから後は名前通り動け」ではなく「名前と着るべき服を選ぶところ」を物語の題材・舞台に置くことがしばしばある。
服を他人に着せられることは女性向け作品では「支配欲」の象徴
相手が母親なのか、ナルシストな男なのかは作品によってまちまちだが、おおよそ自分の代わりに服を選んで着せるやつは創作の世界では「支配欲を振りかざして支配しようとする奴」として描かれる。
今回の作品にも「自分では名前を選ばない」というエンディングが2つ存在する。
1つはまっさらな状態…記憶喪失のまま病院からもらった白い服だけのエンディング。
もう1つは支配欲・所有欲の強いキャラに名前を決めてもらい、所有されることでバッドエンドを迎えるエンディング。
全て同じ人物だが、名前と服装だけが違う。
FILAMENTの中では「私」が私になるとは記憶を集めることよりもむしろ、「私らしい名前と格好」を選ぶことと定義され、それがエンディングに反映されている。
この辺の創作知識があることを前提にしないとこのゲームはそもそも何をしてるからさえよくわからない。
…もうちょっとこのゲームに限った言い回しをするなら、「このゲームをプレイした女性達が自分達の妄想しうる余白を残してその方向性だけを与えてあげること」だけに徹してる。説明された原本、完成品を掘り下げること好む男性向けとは終着点も異なる。
諸々の創作にまつわる事情を理解しておかないとこの作品を楽しむのは難しい。
それは「ゲームとして」見ると不親切極まりないことだが、「物語」として見ると大事なところだけをシンプルに抜き出した作品だといえる。
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ちなみに、このゲームをやってからやるともっと面白くなるので、プレイしてからやるのをオススメしたい。
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