こんな記事を読んだ。
ソフトバンクの強みは、豊富な資金力に支えられた育成と補強。
(略)
さらに総工費60億円をかけて新設したファーム施設が、昨年から稼働している。下からイキのいい選手がどんどん出てくるのだから、主力もウカウカできませんよ
故障者続出も戦力維持 ソフトBの「補強」は巨人と何が違うのか (日刊ゲンダイDIGITAL) – Yahoo!ニュース
昨シーズンは日本ハムの日本一、カープの優勝、DeNAのCS進出…逆に1軍2軍ともに最下位のオリックスと、フロントの力がそのまんま順位に反映されたシーズンだった。
でも、この記事を読んで「ソフトバンクはもっと先を見ているのでは?」と感じられた。
その説明をシンプルにすると「高校野球っぽいことをソフトバンクはやっているなぁ…」と言えばいいのかな?
とにかく、いまのソフトバンクの強さは高校野球を紐解いていくとよりわかりやすい。
高校野球の強豪校以上は学校に球場があり、野球部が別枠扱い
「強い野球部」の特徴としては「野球部専用の球場がある」というところが飛び抜けて違う。
他の強い部活と違って、授業では使わない部活専用空間があるところが全然違う。
僕は兵庫と神奈川の私学をそれぞれに在学してるが、どちらもベスト16クラスの野球部だったくせに、専用の野球場があった。
…ちなみに、兵庫時代にいた学校は高校野球では古豪扱いされてて、神奈川時代にいた学校は僕がいた時に「決勝まで行ったら全校応援だから、その日は開けとけ」とか動員のプロパガンダをかけていながら、2回戦か3回戦か…で公立校に負けるという酷い失態をやらかしてたので、目の黒いうちはずっと笑いものにし続けてやろうと思います。(※卒業してから数年後、本当に甲子園にでたけどね)
設備投資がもたらす安定した成績
全国区と強豪に設備面の違いはほぼない。選手の身体的なポテンシャルもそんなには変わらない。
ベスト16ぐらいの学校でも、野球部だけ身長が高くて、胸板が厚いマッチョマンが集まって、そいつらがレギュラー争いしてるから、すごい世界だと思う。
それを公立校が押しのけるのは難しく、選手層の有無はすごく大きな問題だと思う。
ソフトバンクがやっているのはまさにそういうことで、選手層がしっかりしていれば、内部の競争が起きるだけではなく、主力選手のケガ・怪我につながる酷使も避けられる。結果として、成績に安定感が出る。
他の球団だって、支配下登録できる人数は同じだけど…三軍制度や二軍球場などに積極的に投資する意味は…そこだろう。
お金があるからできることでもあるが…ソフトバンクよりも人気のあるセ・リーグ球団…あるいは人気もお金もあった巨人や西武もしてこなかったことをソフトバンクがやったのはそういうことなんだろう…。
「そんな金があれば、名監督・名コーチを雇うか、補強したほう方がいいに決まってるじゃないか」
…と思われるかもしれないけど、ソフトバンクの監督には、「名監督」だった人はいないんだよなぁ…。
今でこそ王貞治は名監督だけども、ダイエーに入ってくる前は割と暴君みたいなところがあって、批判や揉め事が多かったし…。
秋山幸二、工藤公康は名選手ではあるが、監督としての実績はないし…。
巨人も、一応はそうなんだけど…昔の巨人がそれでやっていけたのは、みんなが巨人に入りたがったこと・巨人も巨人でドラフトや補強で便宜を図ったから監督未経験者でも昔の巨人は優勝できるメンバーが揃うわけで…。
本来のダイエー/ソフトバンクは時代と球団側の事情で、普通に行けば新人監督や気性の荒い監督が乗りこなせるような球団ではない。
それでも、優勝できるのはなぜか?
それは一貫して層が分厚いこと。
90年代後半から、選手時代の秋山が作ったチームの空気が、切れ目なく受け継がれて次々と強い選手が出続けたこと。
しかも、そういう人が移籍しても、小久保や川崎宗則みたいに帰ってきたりするから、野球に取り組む姿勢やチームのいい雰囲気は変わらないのよね…。
一流と二流の違い
これは高校の部活にも言えることで、
・強豪校の指導者は精神論大好きで、全国区の指導者は論理的または人格者。
・強豪校の部員は頭の悪い輩で暴力的なオーラ出してるヤンキーで、全国区の部員は地頭が良くて一夜漬けとかでガリ勉より成績がいい人が数人いて、口喧嘩するとうまく言い負かしてくるし、態度にも余裕がある。
まぁ、このへんはどの世界でも一流と突き抜けきれない人はそういう違いがあるのだが…兵庫で在籍した学校では(野球以外に)いくつかの全国区の部活・後にプロになった同級生と直に触れ合うことができ、そういう教訓を僕に授けてくれた。
プロ野球でも監督…いや、一流選手が流出すると一流の振る舞いができない人ばかりになって上位から遠ざかることがある。
00年代の広島・オリックス・DeNAなんて、まさにそう。
主力選手の移籍・引退が続出してからもう勝てそうな空気さえなくなって、低迷期が来た。
確かに、選手層は安定感を生む。
だけど、選手の頭数・体格・使っている設備で差がつかない時は…チームが持っている空気感…いい空気が出せる選手や指導者がいるかどうかの差になってくる。
選手はいくらがんばってもプロのグラウンド全てを支配できないから改革には時間がかかる。そこで監督の話が大事になる。
プロ野球で名監督が就任すると、チームの順位が一気に上がる。
名監督とは「勝てる空気」「勝てる野球」を知ってる人・作れる人だから。
仰木彬、落合博満、梨田昌孝…阪神以降の星野仙一なんかもそうだし、仰木・梨田の系統で言えば権藤博もだけど…あの人達がチームを率いると勝ててしまうのは、そういうこと。
同時に、特にやり方に癖のある仰木・落合・権藤が率いた後に、どうしてもチームが低迷してしまうのも…そういうこと。
名監督後遺症とその対処法
名監督というのは、1軍の選手を使いこなす・やる気にさせる・必要なことを要求して揃えるのがうまい人に偏る。
ある意味将棋やチェスの名人であり、ある意味買い物上手な主婦。
だから、抜擢した選手がブレイクしたり、助っ人外国人が当たったり、去年からいた選手が120%の力を出す。
こういう人が監督をやっている時はすごくフロントは楽。
(野村時代の阪神、伊東監督率いるロッテなど)お金を出す気がないところは論外。
一方で…とりあえずはお金を出す楽天やオリックスと名監督の相性はいい。
だって、監督に言われている最小限の補強だけをすれば、後は監督が勝てるようにやりくりしてくれるから、すごく楽。
選手も選手で、空気に乗っかっていけば勝てるから、必死に練習する。そして、一流の選手になる。
名監督のいる間はそれで勝てるけど…その後継者は大変。
まず、フロントが最小限の補強しか聞き入れてくれない。(※最小限の補強で勝ててしまう落合がGMに就任した日には地獄で「落合クラスの監督でないと勝てない戦力」しか提供されない)
次に、選手も名監督と一緒に歳を取った選手…が中心。
高齢化しているばかりか、名監督の下で大成した選手が移籍した状態でチーム編成をしなければならない。
だから、前任の監督と同じ野球はできず、経験不足の若手と一緒に勝ち方から作り直さないといけない。
これが、名監督後遺症である!!
ただし、権藤・星野・梨田のように就任期間が短いと後遺症にはなりにくい。(横浜の暗黒期はTBSのせいだからなぁ…。)
しかし、仰木や落合…少し昔になるが、川上哲治なんかもそうだけど、10年前後名監督が就任した後にだと、名監督後遺症に悩まされて暗黒期が来る。
名監督後遺症対処法
その問題を解決するのが「層」であり、「フロントが計画的に運営する」こと。
個人技が左右するスポーツでありながら、個人技に依存しすぎないで「企業のように運営するやり方」を取り入れること。
そりゃ、カリスマ的なリーダーが出てきたほうが120%の力が出るけど、毎年毎年80%の力を出し続けるやり方を意識すること。
そのために必要な選手や監督…奇抜すぎず、でも勝ち方や勝てる雰囲気はキチッ取っている人を適度に取り入れ続けること。
それは日本ハムや広島、DeNAもやってる「計画的に選手を育てて切れ目なく選手が育つ環境を作ること」ことだけど…それをさらに大金を使ってやろうとした結果が3軍を作って、2軍も競争させて「明日1軍が怪我しても、十分に戦えるチーム」になっていくんだろうなぁ…。
そうなってくると、プロ野球ってもはやシステムの戦いになってくるんだろうなぁ…。企業っぽくもあり、選手層や資金力の差が如実に出てしまう高校野球っぽくなるんだろうなぁ…。
本当の元ネタはメジャーリーグらしいけど、メジャーほど多国籍にも個性的にもならないから、設備と体格で強いチームが蹂躙するさまは高校野球っぽく見えるのだろうなぁ…。
昔から、企業の代理戦争・組織論の縮図といった側面はあったんだけど、今後ますますそうなっていくんだろうなぁ…。
それを突きつけたのが今のソフトバンクで、かつては昭和的な球団の代表格だった南海だというのだから…すごい話だ。
もし、次の時代を見越して田口壮を二軍監督にしているなら、オリックスは先見の明があると思うのよねぇ…。
書き物できるぐらいロジカルで、別の球団でも優勝経験あるから勝てるチームの空気も知ってるから…資質はありそう。
オリのことだから、多分、そうじゃないと思うけど…。