マンガ「1日外出録ハンチョウ」は1日をめぐる自分との心理戦である!!

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できるだけ隠れた名作をピックアップして紹介しているこのブログだが、今回は珍しく「話題の作品(?)」 を紹介してみたい。*1

ネタっぽい表紙と題材だけど… これが案外面白かった。

あらすじ

とりあえず簡単に説明すると、この2枚。

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 まず、酷い借金を抱えた人達が強制労働施設に入っている。

だけど、その労働者にもお小遣いを使って、娯楽を楽しむことができ、その娯楽の中でも最も贅沢とされているのが「1日外出券」だ。

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 そして、労働者達の娯楽取り仕切っている「ハンチョウ」こと大槻は、強制労働施設の中で荒稼ぎしたお金を使って、幾度となく外出をしていた。

普段は下手な刑務所よりも劣悪な環境に隔絶され強制労働してる男が、外出してシャバの世界での1日を楽しむ…という話。

このマンガが生まれるまでの紆余曲折

あらすじをみてもいまいちわからなかった人もいると思う。それもそうだ。
予備知識もないままマンガを手に取っても読めるには読めるけど…それでも、ところどころわからないであろう事情が出てくる。

まず、このマンガは「賭博黙示録カイジ」という作品のスピンオフ(派生作品)。
元になっているカイジは、大金や己の人生をかけて、命がけのゲームに挑む主人公「伊藤カイジ」の物語で、ギャンブルやそれにまつわる心理戦・駆け引き・トリックを描いたマンガ。

カイジ自体もアニメ化もされているし、藤原竜也さん主演で実写化もされているから知ってる人も多いだろう。

福本伸行作品全般に言えることだけども、カイジの場合も出てきた悪役がとにかくアクが強い。
そこで、「アクが役を使って別のスピンオフを(福本伸行ではない別の人が原作・作画を手がけて)書こう」という形で生まれた作品が2つ。

1つは「中間管理職トネガワ」というサラリーマンの葛藤をサイドストーリーとして描いたマンガ。(※こちらはもっとカイジの知識が必要となる作品だから、本当にカイジのアニメか、原作を読んでから見たほうがいいと思います。)

※絵が福本伸行作品と変わらないのは作画している人が福本伸行さんのアシスタント経験がある人だから…。
↑これがすごく重要で、スピンオフでありながら本家顔負けの演出とキャラクターデザインだからなんの違和感もなく楽しめる!

そして、トネガワが圧倒的な人気で「このマンガがすごい!2017」のオトコ編で1位に…。
そこで、味をしめた原作者と、作画二人のうちの一人がまた別のスピンオフを出したもの…それが「1日外出録ハンチョウ」である。
しかも、グルメマンガである!

カイジの作中では地下の極貧作業員達からイカサマのギャンブルをしかけては、金を巻き上げている悪党なのに、なんかすごくいい話、深い考えが多くて「これ、カイジ関係なく面白いよね!?」と言いたくなるような内容。

確かに、読んだ感想としては
「カイジ知らなくても楽しめる」
「カイジの設定が分かったほうがいいけど、わかんなくても特に差し支えない」
「カイジ要素少なめやなぁ~。少ないけど、ピリッと効いてる」
というもの。

でも、カイジから生まれたキャラクターで、カイジの設定の蓄積があるからこそ「グルメマンガとして読んだ時に異彩を放つ作品ができた」とも言える。
いや、むしろ「グルメマンガと呼ぶにはあまりにもグルメ以外の面白さが濃ゆすぎる作品」といったほうが正しいかもしれない…。

ただのグルメではない!!悪魔的なグルメだ!!!

今メジャーなジャンルになったグルメマンガだが…それでも「ハンチョウ」のような作品は珍しい。
…というのも、いい意味で「グルメマンガの主人公」 らしくないのだ!

グルメマンガの主人公の多くは、
・理屈っぽく、
・生真面目で、
・内向的で小さな感動を感受性で膨らませていくような、
・文化的なことへの興味が強い人
とにかく、 通常はギャンブルをしてイカサマをして荒稼ぎするような…他人やお金にすご~く興味のあるようなキャラはあまりグルメマンガの主人公になることはない

 

だからこそ、悪どくて、不真面目に見えるハンチョウは、グルメマンガの主人公として新しい!!普段は悪いことに使ってる悪知恵の数々を「楽しむ」という一点に注いでいくからこそ、「グルメのマンガとして考えられたキャラ」とはぜんぜん違う行動をとる。
そこが、斬新でグルメとはまた違う読み応えを出してくる。

厳密に言えば、このマンガは「グルメマンガ」ではないよ!

人を苦しめるプロみたいな悪魔的なやつが、悪魔として培ってきた観察力や、自分が苦しまないようにする技術の数々を、グルメやグルメを食べる休日のために使う。

「毒と薬は同じものからできている」
「天使と悪魔は実は同じ存在」
なんて言う人がいるけど、ハンチョウの魅力はまさにそういうところにある。

普段、心理的な毒を駆使するプロが、自分を癒す薬として毒を使いこなす「自分自身との心理戦を描いたマンガ」がこの作品なんだ!!

 

時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たす時、束の間、彼は自分勝手になり、自由になる。

誰にも邪魔をされず、気を遣わずモノを食べるという孤高の行為。このこういうこそが現代人に平等に与えられた、最高の癒やしといえるのかもしれない。

孤独のグルメ season 1より

ハンチョウでやってることも本質的には同じなんだよ?

でも、「孤高の行為」や「最高の癒やし」にたどり着くまでの「自分との心理戦」の描き方が、より鮮明になっている。

たった1日…だが、その1日を謳歌するために、自分自身に降りかかる毒を避け、自分の観察力や知恵を駆使した薬で癒やす。

休日を楽しめるかどうかさえ、自分自身の戦いだと教えてくれるところがこのマンガのすごさなんだ。

非現実な設定のように見えて、すごく現代人的な作品

カイジや福本伸行作品自体「こんなゲームも世界観もないよ!」と言いたくなるような設定が随所に見られながら「本質的には自分たちがやっている日常と同じことが大事で、同じような駆け引きの中で生きているのでは?」と思うような作品がいくつかある。

ハンチョウも「強制労働施設」だとか「1日外出券」 と言われたら、非現実的に見える。

ところが、1日外出した後にその一日をどうやったら最高に楽しめるか…1日しかない時間の中で自由な時間や心を獲得していくか…その「自分との心理戦」はお仕事をしている人や、めったにできない経験を目の前にした個人の誰もが直面する現実的な問題ではないだろうか?

僕は先程「厳密にはグルメマンガじゃない」という言い方をした。
それは「グルメを紹介するマンガ」でも「グルメを表現するマンガ」でもなく、「余暇の楽しみ方全般」にスポットが当たってるからグルメマンガと呼ぶとマンガの面白さが伝わらないから。

現に、僕が一番胸を打たれたのは、飯屋にすらついていない時になされた側近とのこのやり取り。

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休日の本質ってこういうこと!
「休みだから○○しないといけない」とか、
「出かけたからには、より多くのスケジュールをこなさないといけない」とか…
そういうことじゃない。

本人が休まってなおかつ楽しいんだったら、別に寝てようがパチンコに行こうが別にそれでもいいんだよ…。

遊園地行っていくつアトラクションに乗るかばかりにこだわらなくたって、ぼーっと何にも追い回されない1日を噛み締めたっていいのよ…本人がそれで休まって楽しいなら。

もちろん、「そんな自分を変えたい」というならそれはそれで別の「自分との心理戦」を戦うべきだけど…休みの本質ってそういうことだ。

自分が満足できるかどうか!
急ぎすぎないことも、無計画ゆえに休みを潰さないことも自分との戦い。

よくテレビには、妻が旦那や子どもに
「休日なんだから××」
というセリフが出てくる…。
それは子どもや旦那の問題ではなく妻の問題だよ?

妻が休み方をわかってないか、「スケジュールがあった時ぐらい出かけたい」という意思表示がすげー回りくどいか…それだけ。
「それが女心なんだから汲み取れ」という人がいる。
実際に自分の母親がそうでそれがもとで夫婦喧嘩、親子喧嘩してた。

でも、それはおかしいんだよ。
相手の意図を汲み取らなくとも汲み取らなくても(少なくとも自分は)楽しい休日を送ってるんだから、そこから自分のしたい休日を作ろうと思ったらそれもそれで心理戦や意思表示が必要だよ。

あまり深く議論されてないテーマだから見落としがちだが、休みを楽しむことは実はコミュニケーションの問題なんだ!

独り者なら自分と、連れと出かけたなら相手を巻き込み駆け引き、同居人がいるなら意思表示や交渉…。

そういうテーマで掘り下げてくれているから、ハンチョウは奥が深い!

カイジを知らない人でも読んで欲しいし、カイジを知らなくても腑に落ちる面白さがあるから、ぜひ読んで欲しい。

2巻も読んだけど、2巻は終わり方のセンスが良かったので是非。

1巻のおまけもかなり秀逸で「わかってる」感があって好き!

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