20年間生え抜き監督を貫く西武歴代監督の歴史

 

「監督の歴史を紐解くと、球団の方針や強い時・弱い時のパターンが見える」

ということで、第三弾は西武ライオンズを2リーグ制発足から読み解いていく。

第一弾:ロッテ歴代監督達の呪われた歴史

70年間一貫して呪われているロッテの監督たちの歴史。強い監督はことごとく辞めさせられるか、選手をトレードで持っていかれるか、約束を反故にされて酷い目に遭うか…そんなロッテ監督、名選手たちの壮絶な歴史を追った。

第二弾:オリックス歴代監督の歴史はフロントの決断の歴史でもある!!

今でこそ低迷しているオリックスだけど、阪急やブルーウェーブ時代にはロッテを追われた西本監督、西本監督に推薦された上田監督、近鉄でコーチとして西本監督を支えた仰木監督らの活躍でリーグ優勝12回!
そして、うまく行ってる時も、迷走している時も基本的に監督を呼んで来る阪急・オリックスはフロントの決断が最も強く出た球団である!!

…そして、今回は西武。

西武はパ・リーグの球団の中ではオリックスと最も正反対の球団。

阪急・オリックスは強い時も弱い時も生え抜きの監督は使わない。(福良淳一監督が就任するまで36年間も生え抜きの選手が監督に就任しなかったチームはオリックスだけ!

ほとんど迷走期がない西武の監督達の歴史

一方で、西武は、東尾修監督から20年間一貫して生え抜きの監督。

しかも、これは西鉄でも同じことで、三原脩監督の後は中西太・稲尾和久がそれぞれ長期政権を築いていて、育てた選手がそのまま監督に就任している。(西鉄時代はプレイングマネージャーの中西太、黒い霧事件で選手が抜けた後の稲尾和久という不利な状況のため、成績自体はあまりよくない)

西武と西鉄では、成績の差はあれど、「巨人から来た名監督→その時に育った生え抜きの選手が監督になる(それで20~30年回っていく)」という流れは昔から共通している

※すごい細かいことを言うと、いま就任している辻監督は現役末期に殆ど追い出される形で移籍してるけど…現役時代の大半は西武なので、「ほぼ生え抜き」とか「西武生まれ西武育ちという意味では生え抜きだけど、叩き上げではない」が正しい。

 

太平洋・クラウン時代には謎の迷走…もとい、打算的な話題作りをしようとして
「メジャーから呼んだ監督が来ない!」

という事件がレオ・ドローチャーという人物について検索してみると出てくる。来ないだけじゃなくて、なぜか英語のテープだけを日本に送ってきたりすることがかえって面白いから、余裕のある人はWikipediaで事件のいきさつをチェックしてみるといい。
レオ・ドローチャー – Wikipedia

お金がなくて、呼んだ監督が来ない、経営母体が安定しないという太平洋・クラウン時代だけ。

西鉄時代も西武時代も…フロントがわけの分からない暴走をして監督がクビになってしまうような事件を起こしたり、名監督が嫌になってチームを去るようなケンカ別れは…ほぼない。

だから、ロッテやオリックスと比べると歴史を紹介する上で、珍事件がないから、ネタ的な考察よりも、真面目な検証がしやすいチームとなっている…。

名監督の方が優勝はできる…だけど。

西武だからこそ検証できる真面目なテーマが1つある。

それは「名監督に任せ続ける方がいいのかor生え抜きの監督を作った方がいいのか」というテーマだ。

実は、西武もまた、生え抜きの監督の方が優勝する割合は低い!

(そもそも他の球団から監督を呼ばない巨人軍を除けば)他のどの球団でもそうだけど、外部から来た監督の方が、優勝している割合は基本的に多い!

下手すると、オリックス・横浜・日ハムみたいに1回も生え抜きの監督が優勝したことのないチームだってある!

だから、監督を外から取ってくるやり方自体は実はすごく正しい。(弱い球団の場合は、本当にすごい監督じゃないと、立て直せないぐらいひどい状態のときもあるし…)

でも、生え抜きの監督を育てることにもメリットはちゃんとある。

生え抜き監督を育てる2つのメリット

細かいことを言っていくともっとあるんだろうけど、話が散りすぎても良くないから2つに絞ってみたい。

1、球団と監督・コーチのやりたい野球を一致させやすい

これが一番大きい。

西武が安定してAクラスに入り続けられる大きな理由は「フロントと現場の不一致が起きにくいこと」にあると思う。

もちろん、不一致も軋轢もあるんだろうけど…それがオリックスやロッテほど酷いところまでは行かないようになっているのが、オリックスファンとしてはすご~く羨ましい。

具体的には、オリックスがここ20年で4年以上務めた監督がいない理由はオリックスのチームカラーにあった指揮官が現れなかったことにあると思う。

最もひどい例で言うと、仰木彬さんが勇退した次に、監督をしたのが石毛宏典さん。

この二人は完全な真逆。

かたや自由奔放で門限もミーティングもないチームを作る仰木監督と、管理野球とまで呼ばれた西武の中でミスターレオと呼ばれた石毛監督。

この二人が同じチームを率いても当然やりたいことが噛み合わないわけで…。

横浜でも似たようなことがあって、権藤博監督が引退した後に監督を引き受けたのが森祇晶監督。

西武では6回優勝した名監督だが、引き継いだチームが悪かったこともあり2年目には最下位も経験している。(※西武ではBクラスすらなかった)

この二人もタイプ的には逆。

かたや「プロなんだから自分でやってください」「監督って呼んだら罰金1000円」とか言ってる権藤博。

かたやチームプレーの徹底どころか、私生活まで徹底管理したせいで「森CIA」「森KGB」とまで選手に悪口を言われてた森祇晶。

フロントに外から来た名監督に丸投げする癖がついていると、引き継いだ監督にとってやりにくいチームであることが多い。

しかし、西武には監督とフロント、前任者とのズレが少ないから大きな低迷が少ない 。

 2、「お金をかけなくても勝てるチーム」が作りやすい

チーム内の文化や方針が変わりにくいことは生え抜きの選手が育ちやすい環境を作りやすい。

たしかに常勝軍団だった80年代90年代は年俸がずっと上がり調子だったため、「金持ち球団」と言われてもしょうがない部分はある。

事実、西武が常勝軍団だった頃はまだパ・リーグの人気がなく、球団が儲かっていないくせに、チームが勝ち続けるから年俸を払い続けないといけないという状況になったことから、森祇晶監督への待遇や優勝祝いはあまり良くなかった。

いや、ムリもないんだよ?

西武黄金期って、パ・リーグの他球団では、流しそうめん流してる頃だし。

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(※川崎球場の某球団の様子です。西武ではないです)

その反省というか西武の身の丈にあったチーム運営をこころがけているのか、選手や監督はともかく、フロントは「お金をかけずに勝てる・話題になるぐらいのチーム」に収まるところを狙うようになっていく。

特に、ここ10年は西武は他の球団と比べてもあまりお金をかけていない。

選手に対する年俸の総額で見ても、設備や補強の面で見てもあんまりお金をかけてない。

西武の設備(室内練習場、選手寮、二軍)の酷さはちょっとした話題で、最近では清宮幸太郎の父が指摘して、ファンがそれを支持するほど。
西武、清宮父から施設について質問される: なんじぇいスタジアム@なんJまとめ

ドーム球場と謳ってるけど、吹きさらし状態だから、豪雨の際には、試合観戦している人が傘をさすありさま。(結構昔の画像ですが…)

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選手の方は…西武に来た外国人助っ人が(昔のデストラーデから最近のメヒアまで)ボカスカ撃ちまくる人がせいで、お金をかけてるイメージはある。

しかし、常勝軍団になっても儲からなかったことに加え、バブル崩壊後の西武グループが不景気になってからは 独立採算制を取らざるを得なくなっているため、台所事情は厳しい。

だから、1993年から2015年までFAで獲得した選手は3人と少ない。
FA選手の獲得が多い球団はどこ? | BASEBALL KING

それどころか、3人もメジャーに選手を送り込んでおきながら、メジャー帰りの選手だってほとんど取ってない。(ヤクルトからFAで獲得した石井一久ぐらいじゃないかな?)

それでも、Aクラスに食い込むチーム、タイトルが取れる選手が出続けているため、球団としてはかなり費用対効果のいいチームになってる。

広島カープにも同じことが言える。

チームとしての暗黒期こそあるものの、暗黒期でさえ選手が育つ、未だにFAで選手を獲得してないのに、自前の選手だけでやっていけるのは、球団と現場が同じ方針で動けているから。

そして、広島カープもまた、1975年の古葉竹識監督から一貫して広島生え抜きの選手か、広島に在籍したことのある助っ人(マーティー・ブラウン)しか監督をしたことのない生え抜き監督の多いチームとなっている。

少ない予算で勝ちやすいチームを作るのに、生え抜き監督が連綿と続くことは大事な条件と言える。

巨人も元々(90年代まで)は、補強や助っ人は一点豪華主義で、それ以外は生え抜きの選手でがんばるチームだったんだけど…堀内恒夫監督以降はゴリゴリに補強するチームを作る球団に変わったから「生え抜き監督が、一貫した方針で選手を育てて勝つチーム」ではなくなってしまってる。

堀内恒夫監督以降と書いたけど、どちらかと言うと原監督またはフロントの影響でこうなっている部分が強い。

堀内自身はチームを若返らせて守備のチームを作りたかった人なので、間が悪いところで監督を引き受けてしまった犠牲者なんだけどね…。

今となっては、西武の方がむしろ昔の巨人軍っぽい?

西鉄時代も、西武になってからも、最初に基礎を作ったのは巨人から来た監督やスター選手。

それを忠実に受け継いで、生え抜き監督・チーム内で育てながらパワーや話題性だけ助っ人で補うスタイルを忠実に受け継いでいるのはむしろ西武であって、巨人ではないんだよね。

歴史を踏まえた上で、考えていくと強くて華やかな頃の巨人ファンはむしろ、今は西武を応援した方がストレスが少ないんじゃないかな?

形式的には、巨人の方が伝統や格式を受け継いでいるのは間違いない。

けど、人気や力技、あるいはルール違反なインチキをドラフトに持ち込む文化が、今のゴリゴリの補強する文化に変わって、悪い伝統も引きずってる現状を見ると…。

西武あるいは、王監督が長期政権を担ったソフトバンクの方がいい意味で巨人っぽいように思える。

なんやかんやで巨人はずっとCSに出続けているし、補強に頼っていてもしばしば優勝しているから正しい、間違ってるの問題ではない。

ただ、時を重ねるに連れて、巨人のいいところを吸収したり、勝ち続けてお金をバンバン払い続ける難しさにも気づいた西武の落としどころというのは、球団の歴史を見ていて

「球団運営としてよくできてる!」

と納得する部分が多くて、調べていく面白さのある球団。

ここ20年の西武は森監督時代を経験した人達ばかりだから、森監督のことが分かると西武がわかる構造になっているのよね…。

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