正確には「若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら、待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です」っていうくっそ長いタイトルです。
いかにも面白くなさそうな雰囲気出てるけど、ウルトラ面白いよ!
特に、マンガとしてのクオリティが凄まじく高いので、
「これは、小説家になろうをマンガ化した作品限定ならば、トップクラスでは?」
というクオリティ。
あらすじ
主人公は成績優秀だけど、面接が苦手で就活でつまづいてる。
本当は不本意だったが…「背に腹はかえられぬ」と、悪名高い「黒魔法業界」を受けることに。
黒魔法に身構えていた彼だったが…意外にもまともな社長が来る。
悪評高い黒魔法業界だったわけだが、いざ仕事内容を聞いてもお給料を聞いてもすごく待遇が良い。
社長もそれを売りに勧誘するほどにいい。
魔法や魔物が出てくるファンタジー作品でありながら、新人の主人公の成長を描く職業モノでかつビジネスや世相をも語り尽くした作品でもある青春小説であり、社会派でもある。
ジャンルやカテゴリー以上に多方面に素晴らしい作品。
原作者の頭がよすぎて、できの良さが逆に伝わらない良作
原作がもつ設定がしっかりしていること、マンガ家がもつ画力の高さがいい意味で化学反応を起こしてる。
まず原作について語るけど…原作を手がける森田季節さんはキャリア10年のプロにして、公立校から京都大学に進学した天才。(ついでにいうと、出身地が近いから言うけど…その公立校もすげー頭いい。)
この作品については「小説家になろう」だけども、なろう小説と呼ばれるJ-RPGをパロディした小説だけではなく、ミステリー小説や青春小説も書けるオールラウンダー。
そんな頭のいい人だからこそ、「小説家になろう」に投稿する前は目立ったヒット作品が少なかった。
だからこそ、すごく編集者からは期待されて文倉十や伊東ライフなど、オタクなら知らない人がいないようなイラストレーターが彼のライトノベルの挿絵を手がけている。
ただし、頭がよすぎるからこそ、この作品には解説が必要で、すごいことをやってるのに、ちゃんとすごさを語れる人が少ない。
設定とはメタファライズ!作者はその天才だ!!
この作品に限らず、森田季節という作家はとにかく設定がうまい。
今回の場合でいうと、魔物も魔法も出てくるファンタジーな要素を使って、社会派…つまり、現実に起こってる問題のことを、ファンタジーの中のできごとに置き換えて語るのがうまい。
例えば…営業成績を上げるためのハードワークも、魔法の世界っぽくアレンジすると、こんなコマに早変わり。
これ、すごいですよね?
…どこがすごいかわかりません?
人間の世界でしょっちゅう起こってる過労や不道徳といった自己犠牲をファンタジーの世界では「禁忌の魔法」として描いて、少しマイルドにしつつも社会派な部分を守っている。
冒頭の設定からしてそう。
「主人公のような、社会を知らない学生には抵抗感のあった業界が実は高待遇で、仕事に誇りを持ってる人がやってる」
という話は…実際の世の中にもある話。
この作品に否定的な人は「初任給2倍で、ホワイトな会社に応募が殺到しないのはおかしい」と言う。
だけど、学生なんて、リクナビマイナビに出てくる企業と、自分の趣味や調べ物で知った企業ぐらいしか受けないから…意外と高待遇な会社が効率よく人材を取れてるわけでもない。(※中途採用も求人誌に載っけてる採用や宣伝にお金をかけてるところから探しがちだから、あんがい視野が広がらない)
そのことは映画やメディアでも度々出てくる。
映画の世界で言えば…「おくりびと」なんかが近いかな?
亡骸に最後の化粧を施す「納棺師」というお仕事は、重たくぞんざいに扱われがちで、偏見の目で見られるお仕事だけど…そこに誇りを持って取り組んでる人もいる。
あるいは、(映像制作的なものも含めた)水商売の世界は法律の縛りがきついこと、忌み嫌われてること、働き手に女性が多くなってしまうこと、なり手が少ないことから待遇改善が進んでる会社やそれをアピールしてる会社もある。(やりたいかどうか、世間様に誇れる仕事かどうかは別問題だが)
目立ってはいないものの、就業時間を短くしたり、給料を多く渡すなどして、会社全体の成長よりも働きやすく持続可能な企業を目指す中小企業も探してみると意外とある。
ブラックだと言われている業界でも、経営者が確立したビジネスモデルがしっかりしていると、待遇面がよかったり、過酷な労働をせずに済むことは…ある。
くどいようだが、ディズニーランドのアルバイトの待遇が長い間改善しなかったことなんかを見てもわかるよね?
社会的ステータスが高い仕事・憧れのやりたいやつがいっぱいいて、知名度の高いお仕事は逆にブラックなこともある。
…大学生の頃は気づかないし、気づいたとしてもなんとなく、世間的に名前の知られている企業・なんのリスクもないまともな仕事にあこがれてしまいがちだけど。
つまり、この作品の「黒魔法業界」という題材は、「学生が見落としがちだけど、実はいい職場・いい業界」のメタファライズだ。
「そんなのありえない」と思いがちだけど…「待遇のいい仕事=人が集まる」とは限らん。
宣伝してない会社・できればやりたくない会社も多いから。
その上で、キチッと少数精鋭ながら人材集められている社長さんはこう言ってる。
ファンタジーの世界でいうからこそ、この言葉は重みが2倍にも3倍にも伝わる。
現実には、その人が優秀であっても、偏ってる人は腹が立ったり、稚拙な部分が目立ったりしがちだよ?
ファンタジーの世界だとキャラが強い人は当たり前のように出てくるし、そこに現実社会のような「就活」や「サラリーマン」の概念を持ち込むと「まぁ、こういうアクの強い人は、大企業や普通の面接からはハブられがちだよね〜」と思える。
キレ者で変わり者な人と、それを排除する社会…両方をすんなり飲み込みやすくなる。
これ、作者自身の投影でもある。
作者が頭がいい人だからこそ、尖ってて認められてきた部分と尖りすぎてわかってもらえなかったところが両方あるわけ。
それゆえに出てくる本音を、うまくメタファライズして、ファンタジーの世界に持ち込めている。
…ぼくはこれが天才的な発明だと思うんだけど…伝わってるかなぁ??
お色気要素が多い作品だからこそ、マンガ家が作品を150%面白くしている。
「そんなに作者が頭良くて素晴らしいならマンガじゃなくて原作読めばいい」
という人もいるかも知れない。
それでも、ぼくがマンガ版を推したい理由は…マンガの方が原作者が打ち出している設定や方向性が活きているから。
だから、『マンガ版としては最高傑作』と言ってる。
その1つがお色気要素が多いこと。
例えば、黒魔法業界に内定した時に、社長の提案で使い魔を紹介するんだけど…召喚した使い魔がコレなんだよ。
はい、お色気要員。
こいつのせいで、かなり過激なマンガに仕上がってる。
…いや、社長のせいでもあるか。多くは語らん!!だが、察しろ。
加えて、このマンガ家さん、お色気要素の描き方がすげーうまい。
お色気要素のあるところを優しくかわいく甘く描けることに加えて、別に色気のないシーンでさえ、マンガ家さんが独自に色っぽくアレンジしてくる。(詳しくはマンガで見てね)
マンガ家さんの画力・アレンジ力・作品の解釈力が高いから、安定して面白い。
しかも、お色気要素も20代の若者にありがちな、
「女の子の知り合いが増えたり、深い仲になってくると…知識が増えて、やさしくなって、コンプレックスがなくなって落ち着いてくる」
という感じを主人公の描き方に出してくるから、すご~くいい。
少年マンガやライトノベルでやり尽くされた無理矢理のお色気シーンではなく、真っ向勝負のお色気シーンとそれによって変化していく主人公がストレートに描かれてくる。
ファンタジーでもあり、社会派でもあり、青春小説でもあり、お色気でもある。だけど、どの切り口から見ても素晴らしい。
賛否が分かれそうな描写や設定はいくつもあるけど、裏付けや影響がしっかりしているから考えて読めば、ちゃんと作品が応えてくれる。
だから、言いたいんだよ。
「なろう小説のコミカライズの中では名作」
だって。
こんなに無駄なく多方面に素晴らしく、原作とマンガ家のいいところがキチッと出てる作品なかなかないもん。
アラサー以下のオタクは絶対読んだ方がいいよ?これは来るから。