オリックスの福良淳一監督が2018年で辞めてしまう。
最初の頃は
「なんで伊藤光がいるのに貧打の上に育ちきってない若月を使うかな…」
「大した成績を上げないベテラン選手をいつまでも使い続けるのかな…」
と欲求不満だったのですが…福良のカラーがわかってくると、「オリックスが福良監督のレベルとあってないだけかもしれない」「この人が元々強いチームの監督をしていたら、ぜんぜん違う結果になってた」という考えになってる。
事実、福良監督はコーチをしていた日ハムの選手と、監督として関わっているオリックスではものすごく福良のファンが多い。
好きすぎてオリックスに日ハムのベテランが移籍しに来ている部分もあるし…。
グラウンドでの評価と、ファンの評価が最も乖離している監督の一人だと思う。
そこで今回は福良監督の魅力を語ってみたいと思う。(本当は勝ってから書きたかったが、勝ち切る前に辞めてしまったから…うーん)
知将達の参謀としての福良監督
監督としては5位→4位→4位とパッとしない福良監督だけど、実はコーチとしては日ハムのリーグ優勝と、オリックスのCS進出に貢献している。
日ハム時代には梨田監督・栗山監督を支え、オリックス時代には森脇監督を支えている。
梨田監督は…近鉄・日ハム・楽天と、自分が通ったチームをことごとく「いてまえ打線」に改造して打撃のチームに作り変えて打ち勝つ名将。(当時目立った長距離打者がいなかった日本ハムでさ梨田にかかれば、チーム打率がたかいいてまえ打線に変身させている)
しかも、09年の優勝した時の福良さんは、ヘッドコーチと打撃コーチの兼任。つまり、梨田野球を影で支えた右腕…ということになる。
栗山監督の1年目にも福良さんはヘッドコーチに専念して支え、この時にも優勝。
栗山監督は福良さんに感謝して著書でも「右腕」として触れるほど。
ただ、2012年の優勝は、打撃が大したことない中で、中継ぎ・抑えを酷使しての優勝だったので、チーム内に確執が生じて吉井投手コーチも福良ヘッドも日ハムを去ることに。(特に吉井は栗山監督と激しく衝突してる)
オリックスの森脇監督は…オリックスらしい投手王国っぷりを発揮して勝利。
ごく一部の野手だけが打ちまくって、少ない点差を投手王国で守り抜く…というオリックスのお家芸とも言える野球で、2位に。(イチローがいた時からそうなんだけど、オリックスって強くなっても野手9人中4人ぐらいはあまり活躍してなくて、むしろ投手が充実していたから勝つパターンが伝統的なスタイルなんだよなぁ…)
さらに、森脇監督は野村監督からも一目置かれるほどの智将だったため、今は中日で実質的なヘッドコーチあつかいで迎えられている。
福良監督は全く逆の2つのチームを参謀としてから監督に就任。
シーズン途中に監督が辞めされたり、現場軽視の補強策が横行するオリックスで、ちゃんとフロントを制御して、結果は出なかったものの惜しまれつつ辞めるという歴史的快挙を成し遂げる。
ついでにいうと、前進の阪急時代も入れて、オリックス生え抜きの監督は梶本監督以来35年ぶりなので、冗談抜きでオリックスの歴史を買えた監督。(だって、オリックス出身者は福良監督がはじめてだし…)
福良監督ほどの人格者となれば、人脈だけでチームができてしまう。
オリックスのフロントが福良さんを呼び戻した理由は…日ハムとのパイプのためだと思うんだよ。
事実、日ハム時代からの付き合いの選手でオリックスに来た選手として糸井や小谷野や増井、さらには日ハムからオリックスに呼ぼうとラブコールを書けた選手として陽岱鋼がいて、福良監督の人望の高さと、オリックスフロントの補強依存っぷりが伺える。
選手だけではなく、指導者も福良人脈が活きている。
ヘッドコーチとして同郷出身の西村徳文を招聘。西村はロッテの人だけど、現役時代には盗塁王、コーチ時代にはバレンタイン監督の下で学んで、2010年にはCSで勝ち抜いて日本一になる「下剋上」を成し遂げた知将の中の知将。
監督やった人がコーチとして呼ばれることはそんなに多くない。
それも、日本一まで経験した人で、なんなら現役時代の成績だって圧倒的に西村徳文の方がいいぐらいなのに、福良の下でコーチを引き受ける…これ、実はすごいことなんだよね。
さらに、二軍監督には田口壮を呼び寄せる。
田口壮は元々オリックスの選手でもあるけど…90年代前半の強かった頃のオリックスを一緒に支えた先輩後輩の関係。
田口壮の手腕はマスコミでは過大評価気味で、ネット上の野球ファンは疑問視されがちだけど…(ソフトバンク・広島が強すぎて)激戦区のウエスタンリーグで順位を着実に「5位→4位→3位」と上げているから、ぼくは有能だと思う。
2軍で勝つだけではなく、調整して一軍に選手を送り出す意味でも田口は優秀で、怪我人が多くて若い選手を一軍に抜かれがちなオリックスで、活躍できる若い選手をちらほら育ててる。
さらに、その時代を一緒に支えていた藤井康雄もソフトバンクコーチ陣から、オリックスへ。
2017年までで2010年からオリックスで投手コーチをして、「チーム自体が弱くても投手王国」「剛速球投げる人がいないのに、変わり種の打ちにくい投手が多い」…という状態をオリックスで作り続けた星野伸之コーチが去ってしまった。
代わりに森脇監督時代の投手コーチで、ソフトバンク時代には王・秋山政権を支えた、高山郁夫が合流。
さらに、キャンプでは福本豊や山田久志を臨時コーチとして招聘した年も…。
数年前はフロントの暴走や、めぼしいOBが少なすぎたことから指導者がいまいちパッとしなかったオリックスが、福良人脈とフロントがうまく連動して、年々指導者が豪華に。(イチロー以外の90年代オリックス黄金期の主力メンバーはだいたい球団運営に関わってることに)
さらに、福良監督が来る前のオリックスは助っ人やベテラン選手が加入しても良くならないまま引退することが多かったが、福良監督の時代には、日ハムから来た糸井や増井が活躍。(増井は35セーブ、糸井に至っては最年長の盗塁王まで取ってる)
さらに西武からマイナーリーグを経て入った中島裕之も当初は「置物」呼ばわりされるほどひどかったけど、なぜか監督が福良に変わってからは毎年3割近い打率を残し続けている。怪我や事故に巻き込まれてもそれなりの成績を収めてるところを見るとさすがは元サムライといったところ。
外国人も福良監督後は当たりが多くて、ロメロは4番打者、アルバースは9勝とはいえ勝ち頭。
オリックスが生んだインテリメジャーリーガー長谷川滋利が2016年からシニア・アドバイザーとしていい選手を取ってきていることも大きいだろう。
福良監督で勝てなかった理由はなんだろう?
もともと優秀でポテンシャルが高い選手を使いこなすのがうまいため、ベテランや外国人は福良監督の下で能力を出し切って、タイトルを取ったり、ケガをしても徐々に回復して活躍できるタイミングを作っている人が多い。
若手でも固定して使い続けた若月や、ケガさえしなければ、年30本ペースでホームランを量産してくれる吉田正尚は年々良くなっている。(ほぼフル出場した2018年にはホームラン26本、打率.321という大活躍)
一方で中間的な使い所が中途半端な野手が多くて、福良監督の下では伸びきれなかった感じが強い。
よく言えば競争が激しく、悪く言えば実力や自己管理能力が1.5軍ぐらいの中堅選手ばかりのチームになっている。
本来なら駿太や武田健吾、西野真弘といった中堅選手が1年間出続けて活躍すべきなんだけど…どうもそうなっていない。
また、T岡田も2017年には本塁打30本打って息を吹き返したが…かつてのホームラン王にしては物足りない中途半端な年が多い。(おまけにチャンスに強くないから起用法が難しい。2018年は不振と起用に苦心した結果として、出場機会まで減ってる)
新人を発掘・育成する能力が上がったから1.5軍ぐらいの選手には事欠かないけど…第一線で活躍し続けられる選手が何年も育ってない。
ある程度信用できる選手を我慢強く励ましながら使うことには長けているのだが…戦力が中途半端なチームでは、中途半端な選手をどうやりくりしていくか・どうやる気を出させていくかもポイントになっていく。福良監督はその中途半端な伸びきれない選手のテコ入れがどうも苦手だったように見える。
野手9人のレベルが1年フル出場できる・作戦で繋げられるぐらいのレベルなら福良監督みたいに人徳で信頼させて好きにやってもらうチームなら全然ありだと思う。
人間力を高めるというか…理論や技術、編成の部分を優秀な人に任せて自分はどうしても言いにくいことを言う時以外は玉座に君臨している種類の監督っていないこともない。
ただそれは川上哲治だったり、ダイエー時代の王貞治だったり…強いチームだからできることであって、弱いチームには監督自身の人柄よりかは技術的な部分や厳しい部分がないと難しい。
福良監督ってどちらかと言うと、人望厚くて周囲をうまくつなぎ合わせるのがうまい人ではあっても、技術を教えて選手をグイグイ伸ばすタイプでもないし、厳しい競争を課して選手をふるいにかけるタイプでも、やりくりがすごくうまいタイプないから…弱いチームを飛翔させるには向いてなかったのかな…と思う。(基礎ができている選手には良い指導者だと思うけど、固まってない人には向いてないのかも…)
ソフトバンクとか日ハムみたいに編成や育成方法がガチガチにあるチームなら、現場でそれを貫いてくれる・ちゃんと関係性をつないでくれる福良監督はかなりいいチョイス。
でも、オリックスだとそもそもの野球の水準が個人技任せだから、信用して使い続けられる野手の数が圧倒的に足りない。
そもそも、コーチ人事や使えそうなベテランの獲得があまり上手でなかったオリックスからすると人望があって技術が優れた人を集めてくれただけでも、かなり進歩なんだけどね。
荒削りなチームや野球がわかってないフロントにまずベースを作る監督としてはかなりいい監督だったかな…と思います。
ましてや、後任の監督は西村徳文説と、田口壮説が両方あるけど…どっちがチームを指揮してもかなり指揮のしやすいチームになってるかと思う。
フロント、コーチ、使えそうな若手、勝ちパターン…森脇監督以前のオリックスになかったものをキチッと確立した上でバトンタッチしているし、それをうまくやりくりできそうな人が監督になるから、ぼくはけっこう期待している。
野手のケガさえ…特に吉田正尚がケガしなければ、今のオリックスは全然優勝狙えるから…。
優勝できそうなチームなだけに西さんには残ってほしい。
ついでに言えば、福良さんにもGMとか編成担当として福良人脈を活かした人材獲得を引き続きやってほしいね。
2000年ぐらいまでは…球界の寝業師って呼ばれた人がいたんだよ。
広島の初優勝、西武黄金期、南海・ダイエーの復活…それらを影で人脈と交渉で支えた人がいたんだよ…。(監督としてはウルトラ弱かったんだけど、GMとしてはすごい人だったんだよ)
福良さんがそういう位置づけで評価されたらいいなぁ…。
栗山監督がヘッドコーチ時代の福良さんに着いて書いた本です。
俺は栗山監督、よくわかんないからなんとなく読む気しないのですが…(嫌いじゃないんだけど、すげー好きでもないんですよ…だから評価に困ってるというね)