アマゾンプライムビデオでプロジェクトXが見られるのをご存知だろうか?
合計29回見られるのですが…これがなかなか名作ばかり。
その中で、最後の回が、旭山動物園の再生の回なのだ。
旭山動物園は日本最北の動物園だが…一時は閉園の危機を迎え、人気の動物がエキノコックスにかかってしまったことで本当に一時的に閉園してしまう。
しかしながら、プロジェクトXは2000年〜2005年の番組だから、「当時すごかったものでも、今はそうでもないのでは?」という回も多い。
例えば、シャープの液晶戦争の回、それにカシオのデジカメの回は当時としては革命的で、会社を大きくするのに貢献したが…2つとも跡形もない。
厳密にはシャープは鴻海に売られ、カシオはデジカメ事業から2018年に撤退している。
そのため、プロジェクトXを見てすごいと感じても、現在もすごいかと言われると…そうとも限らないのが実情。
だから、今「旭山動物園がすごい」と言っても「情報が古いのでは?」と言われてしまう可能性が高いため、キチッとした裏とりが必要になってくる。
※上の図もそうだが、この記事での旭山動物園についての統計は「平成 30 年度 包括外部監査の結果に関する報告書 – 旭川市」に基づいて説明していきます。
そもそも、旭山動物園のなにがすごいのか?
これは数字の面と、旭山動物公園の取り組みと両方で考えていく必要がある。
プロジェクトXを見るとわかるのが「取り組み」の方。
動物園をより楽しんでもらうために、動物園のプロが考えた施設のレイアウトや開園時間、飼育員達が自分達で考えたガイドを駆使して、通常の動物園とは違う楽しみ方ができる様になっている。
「動物たちの素顔を全部見せよう」
というコンセプトで、ペンギンが飛ぶように翼を広げて泳ぐところを下から見えるような構造にしたり…。
あるいは、カバが日中には姿を見せないことから「夜にオープンしてカバの肌や生態を見せられるようにしてほしい」という要望を出して、ガイド付きでカバの生態に触れたり…。(現在はお盆限定だけど、「夜の動物園」はあります。)
プロジェクトXではあまり収益面に触れられてこなかったので、この記事では旭川市の報告書をもとに収益面の話。
なぜ、ディズニーランドは値上げを繰り返すのか?
まず、旭山動物園の入場料は高い!!
東武動物公園には劣るけど、公営の動物園の中では、値上げに成功している珍しい動物園。
高いから悪いってわけではなく、むしろ「値上げしてもキチッと人が入る」というのがいい!!
元々は普通の動物園ぐらいのお値段だったのだが…ピーク時には夏季に1000円、今は820円に落ち着いている。
これがそもそもすごくて…上野動物園や神戸の王子動物園だと600円止まりなんだけど、820円でも人が来る。
「値上げなんて利用者に損をさせることだから良くない!現に集客力が落ちてるじゃないか」
という人もいるかも知れない。
…だけど、これ「レジャー施設」のビジネスとしてはすごく正しい。
というのも…レジャー施設は、簡単に拡張できない。
たくさんの土地が必要だし、拡張できても質を保ちながらの拡張は難しい。
拡張しなかったとしても、人気が出すぎるとレジャー施設が混雑してみんなが不便な思いをするため、人気が出すぎると値上げに踏み切る。
ましてや、動物園の場合、収益化が難しい大きな理由として「集客力がないと動物の餌代や設備の維持がままならず、逆に集客しすぎると動物の病気・死亡に関わるストレスを抱えてしまう」という現状がある。
だから、日本で一番のレジャー施設であるディズニーランドも含めて、「質を上げて値上げしていく」というのがレジャー施設の王道となっている。
ディズニーランドの値上げについては「ろじねこ生活」というブロガーさんの「東京ディズニーリゾート値上げの歴史と推移」が詳しいので細かい数字はそっちでチェックしてもらうとして…1dayのチケットは1983年の開園時には3900円だったものが、2016年からは7800円まで値上がりしている。
さすに凄いのが、年間パスポートで、1988年25000円だったものが、2016年には63000円、さらに2018年には61000円になったものの、年間パスポートでは入園できない日をつくって事実上の値上げに踏み切っている。
拝金主義呼ばわりする人もいるけど…当然といえば当然なほどディズニーランドは混んでるからね。
ディズニーランドって、1時間待ちは当たり前の世界だからお金払って1日の大半を待ち時間にするぐらいだったら「そんなにたくさんの人が来なくてもいいからたっぷりディズニーを体験してもらう」という方向に行くのはしょうがないのよね。
旭山動物園も300万人動員していた時は、人混みに飲まれて業務もままならないし、動物も元気がなかったらしいから値上げに踏み切って正解と言えるし…むしろ、値上げが足りないぐらい。
でも、旭山動物園が良心的な値段に値上げを留めてるのにはもう1つ別の側面もある。
人口33万の都市に、日本トップ5の動物園があるという強み!!
日本トップ5の動物園のうち、首都圏にも大都市圏にもない唯一の地方叩き上げの動物園が旭山動物園なんだ。
動物園の大きいところ(100万人以上動員できた実績を持つ)と言うと、東京の上野動物園、名古屋の東山動植物園、埼玉県の東武動物公園、兵庫県の王子動物園なんかがある。
だから、比較するときも都市圏の動物園との比較になってくる。しかも、他の都市圏と比べても旭山動物園は収益面がいいからすごい。
でも、どれも大都市圏なので、動物園の収益なんて、微々たるものに過ぎない。
しかしながら、旭川市だけは、人口33万人。
北海道知らない人からすると札幌から旭川は近いと思うかもしれないけど…なんと2時間かかる。(北海道の鉄道事情を配慮すると3時間以上の時間も平気である)
車で行っても2時間前後はかかる。
時間を聞いてピンときた人もいると思うけど…なんと、札幌と旭川は140キロ離れてる!
「はんけい」というサイトで、東京駅から半径140キロがどんなもんか調べたところ…伊豆半島の先っぽの南伊豆町まで行ける。
下田市は知ってるかもしれないけど…その先にある南伊豆町という全国的にはあんまりポピュラーじゃない街まで行けます。
北関東で言うと…埼玉どころか、日光を通り越して…那須高原の手前まで行く。
くどい説明かもしれないが、伊豆半島の先や那須高原と東京が同じ都市圏とは言わないよね?
それぐらい僻地に日本でトップ5(ピーク時には日本一)だったような動物園がある。
そこに300万人の人を呼んでいたのだから、それはもう驚きなのだ。
それ以上にすごいのは、外国人のお客さんをたくさん呼んでいる点。
団体で入園した人は(それも把握できる団体客だけで)直近5年だけで、47万人に登る。
動物園だけなら800円ぐらいしか落としていかないが、ここに宿泊や飲食まで含めると、すごい経済効果を生んでいる。
これが、最寄りの大都市から140キロ離れた旭川市でできているのは大きい。
ちなみに、外国人観光客から10万泊以上の宿泊を生み出しているというのは実はすごく大きい。
というのも、官公庁が提示するデータでは福井県や島根県など人気のない都道府県では年間通しても外国人が10万泊も県内に宿泊しない都道府県もいくつかあるため、旭山動物園の効果はすご~く大きい。
札幌のおかげもあるだろうけど、旭山動物園に行くという決断をしていることが、外国人観光客を1日足止めする結果になるので、これはとても大きい。
動物園自体は今とても不人気で、昔に比べると人が来ないところが多く旭山動物園もその例外ではない。
しかしながら、人気がない中でも値上げに踏み切って売上を確保したり、外から人を呼び込んで観光の柱になっている旭山動物園は今なお、理想形を行っていると言える。
動物園全体が不人気で、単純な集客数ばかりマスコミは報じがちだけど、地元に雇用と経済効果を生んで、公営の施設ではなかなかできない値上げや地元の看板施設であり続ける取り組みもできてるのはほんとすごい。
だから、これからもがんばってほしいよ。