マンガ「異世界薬局」は賢さがカンストしてて生きてるのが虚しくなる

マンガ「異世界薬局」は賢さがカンストしてて生きてるのが虚しくなる

玉砕混交のライトノベル業界。
アマチュア作品が投稿される「小説家になろう」であろうと、プロが出版社のレーベルから書籍化されようと玉石混交っぷりは変わらない。

舞台設定に基本的な下調べがなかったり、基本的な日本語がそもそもできないような作家があまりにも多い。
「ラノベは絵」「ラノベは低年齢向けポルノ」などと揶揄されるが…その言葉の通り、ひどい作品はとにかく多く、作者の人格や態度に大きな問題があって炎上することもある。

スタージョンの法則では「どんなものも、90%はカスだ」と言われるが…ライトノベル…特にブームにかこつけてプロのレベルに達していない作品でも平気で書籍化される【小説家になろう】では、カスの割合は90%よりも多いかもしれない。
そのぐらいに面白い作品を見つけるのは困難で、特に頭のいい作家を見つけて感動することがめったにない。

一方で、森田季節さんみたいに京都大学の大学院まで進学してラノベを書く人もいる。
なろうには書いてないが、川上稔さんのように1巻で1000ページ以上もあるライトノベルを書く人もいる。
少数派ではあるが、「作者がインテリ」「本が好きじゃないと読めないものを作る」といったプロも稀にいる。

だから、低い確率ながらとんでもないインテリに出会うことがあり、それを期待してマンガ読み・ラノベ読みは開拓し続けている。

今回取り上げる「異世界薬局」もそんなびっくりするようなインテリ(にさらに監修がついて)が書かれたマンガの1つだ。

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それも、学歴だけじゃないキチッと経済観念もあるインテリが書いたものだから…読んでいる時に僕はこういった。

生きてるのが虚しくなる
自分が苦労して培った教訓や、頭のいい人ほどできていることを何でもかんでも持っている人間が作者なんだ。
嫉妬なんて感情が湧く前に、「ぼくができることは全部この人ができてしまうんだからこの人がいきてる限り、ぼくなんか価値がないよなぁ…」と落ち込むほどすごい。

そこまでの挫折感を与える人はなかなかいないので…すごく衝撃的だった。

そもそも異世界薬局ってどんなマンガなの?

薬の研究をする主人公(大人)が過労死をきっかけに異世界へ転生するという作品。

その後転生した別人は子どもの姿。

医療や魔法を使いこなす貴族の家の子として転生し、転生をきっかけにいくつかの能力を開眼する。
・詠唱なしで強い魔法を出せる。
・病気を見抜く目を持つ。
・21世紀の医学の知識をそのまんま覚えてる。

「強くなる」「転生前の知識を引き継いでいる」は他の作品でもよくあることだが、この作品では「病気が見える」が重要な能力になっている。

この能力を使って、病気を直したり、薬局を作ったりするのが主なお話。

概要を見ると詰め込み過ぎなように見えるかもしれない。
しかし、あらすじの時点で、ダメなラノベが抱えがちな欠点をしっかりケアしている。

「高度な技術を発揮して大きな仕事をするには信用が必要」なところを描いているのがすごい!!

この作品を読むとまず言われそうな批判に
「医者としてすごい能力があれば、別に戦闘員としてすごい必要はないのでは?」
というものがある。

舞台がどんな時代だろうと医者としてすごい能力を発揮する前には医療を行うだけの信用を勝ち取る必要がある。

今で言うと、医学部に合格を積んで研修をした人じゃないと医者になれない。
病気を見抜く目だろうとゴットハンドだろうと医学部に合格しないと無免許医療だ。

異世界薬局の世界観で言うと「魔法を使えないと貴族階級から平民に落ちてしまう」という設定がある。
一見、ご都合主義な詰め込み設定に見えるかもしれないけど、これは歴史物語としてすごく正しい。

中世以前は、政治(的なぐらい大きな経済活動や最新の学問)に関わることができる人は武芸に優れているか、偉い人と血縁関係か、宗教関係で地位が高い人と相場が決まっていた。
だから、医者として優秀な能力以外に、魔法もしっかり使えるのは必要な設定になる。

だから、「ご都合主義」ではなく、考え込まれた設定。
実際に、平民商人からのやっかみや、貴族同士での関係性、宗教との軋轢など「高度な知識を発揮する前には、政治や本業で立場じゃないといけない」ということを裏打ちする描写がいくつか出てくる。

この作品はすごく頭がいい作品だから説明が省かれて読み進めてわかるような構造になっているが、もっとわかりやすい構造になっているのが「アルキメデスの大戦」というマンガ。
このマンガでは数学の専門家が帝国海軍の不正を暴くために協力することになるが…そこでは軍隊嫌いな主人公に政治的な手続きとして必要だからと入隊している。

実際には「資格を取る→信用を得る→合意を取りつける」といった細かい事の積み重ねの上に高度な技能を使った仕事は成り立つ。

フィクションとして底が浅い作品や政治を描かない作品では
「なんかでっけーことしてーなー」
ぐらいのノリで能力だけが与えられて、その能力を見せつければみんなが頼るように描かれがち。
これはこれで夢があるのだが、「夢がある」だけで何の参考にもならないし、現実で悩んでいる人は共感できない。

しかし、この作品では能力を見せても自分が知らないことを信用しなかったり、怖がって敵対したり、排除しようとするさまを描いているからこの作品はとにかくすごい!!

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小説家になろうが持つ構造的欠陥を真正面から解決しているからすごい。

もっとオタクな人ならむしろこっちが気になる人も出てくるだろう。
批判2魔法・医療・知識…主人公に強い能力を与えすぎると、敵もかんたんに倒すし、他の人物もいらなくなってストーリーがー面白くならないのでは?
オタクの世界では、物語に能力が高い主人公や味方が出てくることを「インフレ」とか言われ、問題視される。
しかし、本当の問題は「主人公ご一行の能力のインフレ」ではないことをこの作品では明確にしている。

というのも、主人公の目標や敵キャラがキチッと追いついてくれば、主人公が強すぎても物語はちゃんと面白くなる!!

この場合、主人公の目標は
「庶民にも医療を施せる薬局を作る」
「中世ヨーロッパ風の世界の、医療のレベルを上げる」
「それらを転生前みたいな過労死をせず、適度に人に任せながら・信頼されながら行うこと」
といった、経営や人々の価値観・迷信を変えること。
だから…強いとか、自分には病気を治せるといった個人の力だけでは達成できないことが多い。

ここがすごく重要なポイント。

敵は人々の偏見や不信感…既存の権力や迷信なわけだから…正しいことをいくら言ってもダメ。
実際に手に取ってもらって、体験させて、場合によっては商売として自分も賛同してくれた人も成功させて…強さや正しさでは得られない実感と利便性で周りを巻き込んでいかないといけない。

これがどれだけ困難なテーマかを作者は真剣に描いているからすごい。

確かに、科学的根拠をもって医療を語れる人間がほとんどいない時代だからこそ体験や効果を示せば強い。
しかし、だからこそ明後日の方向からの批判や行き過ぎた攻撃を受けることもあり、そこまで丁寧に描いている。

小説家になろうに限ったことではない!
邦画でも、なろうでも日本から生まれた作品の多くは海外ドラマの素晴らしい作品と比べると2つの弱点を持つことが多い。

1つは能力に見合った大きな目標を描くこと。
能力に対して敵が弱すぎたり、強ければ解決できるテーマが安直に据えられてしまっていることが多いため、最初から物語の進み方・終わり方が予測できてしまう。

この作品や、成功しているなろう作品では、ずば抜けて強く賢い主人公でも一人では達成できない目標へとシフトすることで物語に深みをもたせることで構造欠陥を解消している。
しかし、構造欠陥を解消できない作品はとにかく多い。

海外ドラマだと、強くて賢い主人公の力を悪いことに使う悪友の存在や、生まれ持った悪癖があって正しく幸せに生きられないことを解決することで終わるような話が多い。
典型的なのはプリズンブレイクで、脱獄が題材になっているけど、捕まっているのは主人公の兄。
兄を脱獄させて一人ではまともな生活が送れない兄にまともな生活を送れる場所や人間関係をどうにか確保しようと戦い続ける話になっている。

もう1つが、とんでもないバカを描くのが苦手な作品が日本の作品には多い。
オタクが見るようなアニメやマンガは学生同士が多くて仕方のない作品も多いからあまり問題にならない。
だが、異世界転生作品が増えると、「とんでもないバカがいない」のは人物描写の薄っぺらさや、話の膨らまないなど良くない事を起こしていく。

前述したプリズンブレイクは脱獄がストーリーの中心にあるため、収監されるため、話の通じない囚人や異国の宗教や人種の絆を信じてる移民、歪んだ思想を持っている人がゴロゴロ出てくる。
これが日本のドラマにはない個性の強さであって面白いが、この面白さを持ち込めるドラマやノベルはとても見つけにくい。

異世界薬局では敵キャラにも応援団にもなるギャグ要員として作品に多く組み込まれている。
アホで話が通じないキャラが、かえって本当に教育や科学の進んでない異世界の住人のようで面白かった。
小説家になろうでこれができる作者さんはなかなか見られないから「マジか!!」と舌を巻いた。

 

知識チート作品で、人々の迷信と、その時代なりの賢さを描いてた作品は優秀

類似する話ではあるが、関連しててなおかつ大事な話をもう1つ。

タイムスリップや異世界転生をきっかけに「現代の知識を、今ほど文明が発達していない場所で活用する作品」のことを、マンガオタク達の間では「知識チート」と呼称することがある。

ポピュラーな作品でいうと、信長のシェフやJINが有名だ。
特に信長のシェフは料理の歴史だけでなく、料理で政治的な部分を表現したり、信長という人物について解釈が面白い良作。

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他にもぼくが手にした中では、なろう発の「戦国小町苦労譚」がよかった。


この作品では農業を主題としているが、農法や食文化を近代化させることで、織田信長に貢献する女の子の話が描かれている。

タイムスリップモノにはこの手の作品は多く、特に織田信長の「新しいもの好き」「未来の技術もとりあえず【南蛮から来たもの】といえば聞いてくれる」「信長自身が戦の達人だから主人公と住み分けできる」という性質から、信長の家来として新しい価値観を浸透させる作品は多いようだ。

異世界転生でこういうのを読みたい…と思った時にぶち当たったのが異世界薬局だった。
「知識チートもの」としての面白さである専門知識で世の中を変えていくさまと、専門知識の周囲にある政治的なことや過去の歴史をキチッと描いているところが素晴らしい。
加えて、小説家になろう特有の主人公がやりたい放題強さや賢さを発揮する面白さも尊重されている。

これについても、「この作者はやっぱり頭がいい」と感じたことが2つある。

 

1つは自分以外の人間をただのバカやお色気要員として描かないこと。
なろう作品に限らず、作者があまり賢くない場合は、登場人物をバカとして描くことでバランスを取っている作品は多い。
しかし、この作品のすごいところは、主人公の賢さとはまた違う他の人物の賢さを描いていること。

顕著なのはこのシーン。おわかりいただけるかな?

その時代になかった知識を目の当たりにしてもじっくり質問をして追いつこうとしたり、丁寧な記録を取っていることでより詳しい人を補佐する。
未来の科学や知識がないなりに、その時代の賢い人・大きな仕事をしている人を丁寧に描いている。この描写が入っている作品はとても珍しいので、かなり感動した。

 

もう1つは主人公が医療を変えるために、医療の技術を化粧品に応用したり、子会社を作ったり、高い技術を値上げして同業他社を潰さないようにといった経済的なことも描いているのだ。

特に値段付けについて言及した時は、ぼくの中の医者のイメージがひっくり返るぐらいには「どこまで賢いんだこの人は!」と驚いた。(ここだけではなく、値段付けの失敗やそこから生じる商売の失敗も描いているので、かなり気を使って描いていると思われる)値段をつける・上げる・競合や消費者心理まで考えると行ったことはとても高度なことなので、まさか医療のマンガで読むとは思わなかった。

冷静に考えたらビジネスに詳しい医師がいるのは当たり前だ。
元々頭が良いことに加えて、どんな町・駅にも小さい病院があるから医者ほど経営者の多い職業も少ない。
さらに、薬や事務的な制度についても、ルールを決めるのは行政で実務を行うのは別の専門職であっても、その場で患者に対して判断するのは医者だ。だから、当然知識がある人も多いだろう。

頭で考えればわかりますよ?
でも、実際にやられたらあまりにも作者が賢すぎて虚しくなりません?
・自分も含めた多くの人が苦労してたどり着くビジネスの核心を抑え、
・多くの人が携わるどころか勉強することもできない医療の知識をふんだんに披露して、
・多くの人がチャレンジはするけどなかなか成功しない創作でも作品を出すだけではなく、既存ジャンルの問題点をうまく埋め合わせる良作を作る
これ1つでもできたら生活できること!それを1人で3つもやられちゃったら、もう「俺なんか生きてる必要なくない?」というぐらいの敗北感と虚しさを感じる!!

だからこそ、読んでほしい。
ここまで賢い人間を感じ取ることはなかなかマンガだと難しい。
本であれば、難解だったり、娯楽以外の本を手にすると稀にあるけど…マンガでこれを感じ取るものを出てくるのはすごく難しい。

是非とも、「自分なんて…」という虚しさを感じるほどの賢さや、既存のジャンルを再構築して面白くしていく痛快さを多くの人に楽しんでほしいです。

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