「鋼の錬金術師のすごさ・面白さを語れ」と言われても…難しいんですよ

「鋼の錬金術師のすごさ・面白さを語れ」と言われても…難しいんですよ

もうかれこれ3年ぐらいリクエストされてるテーマとして
「青二才さんは鋼の錬金術師(以下ハガレン)からオタクになったと言うくせに、ハガレンの話全然しない。ハガレンのすごさをもっと語ってほしい。」
というリクエストがあるんです。

これねぇ…すごく簡単そうに見えて難しいテーマなんですよ。

というのもですね…ハガレンは人気の少年マンガ・人気のアニメ作品がやっているような基本に忠実すぎて、逆にハガレンならではのことを語るのが難しい作品です。
一方で、説明がしやすい作品は1つの武器を磨き上げているから全部説明する必要もないし、例え話などに持ち出しやすいのです。

ハガレンの魅力はだいたいエヴァを例に説明できる

まず、ハガレンの大枠を話していくと、知らない人からするとエヴァンゲリオンっぽく聞こえる。
・キリスト教のモチーフが多く、シリーズ構成が設定の時点で物語の終わり方まで概ね描かれている
・親子の確執を描きつつも歳を重ねると父親や母親の目線からも共感できて1作品で2回美味しい
・世界観の作り込みがしっかりしてるから過去の歴史や外国も設定がしっかりと存在して話が膨らむ
・主人公や敵キャラの能力と弱点がしっかりしているから戦闘シーンに緊張感があって面白い
といった、エヴァンゲリオンが面白い理由はだいたいハガレンにも当てはまる

ハガレンの大枠の面白さを語ろうとすると、エヴァンゲリオンの方がわかりやすく直接的に描かれているところが多いからエヴァンゲリオンを持ち出して「こういう作品が世代を超えて愛される」「こういうことを創作に盛り込んでいると面白い」といった部分が説明しやすい。

だから、ハガレンの話をあまりしてこなかった。
ハガレンはハガレンでメジャーな作品だが、より古く熱狂的なファンが多いエヴァを持ち出したほうがわかりやすいから。

 

鋼の錬金術師とエヴァンゲリオンの違いを出すとするとギャグ的な要素の違いになる。
「ハガレンは弱点の存在を戦闘の緊張感だけでなくギャグやラブストーリーとして持ち出している」
「エヴァは他作品のオマージュや様式美的な面白さが多いけど、ハガレンはエヴァほどオマージュ盛り盛りでもない」
という見せ方の違いになる。

ハガレンの場合は戦闘上の弱点をギャグにもシリアスにもうまーく活用するシーンが多い。
特に有名なのは「焔の錬金術師」ことロイ・マスタングが雨の日は無能というアレ。

初見の方はギャグシーンだと思った人も多いかもしれないが…

マスタングの能力はとにかく強力な反面、「焔を出す」という能力の性質上雨の日は弱点になる。
初見の人はこれがギャグにしか見えないシーンに映るだろうけど…「大佐 雨」というキーワードがシリアスなシーンで再利用されたりする。

主人公の「鋼の錬金術師」ことエドワード・エルリックの場合は義手が弱点になってるし、弟で鎧姿のアルフォンスも鎧が壊れると動けなくなる。
で、弱点を突かれて動けなくなると豪腕の錬金術師ことアームストロング少佐に担がれて故郷に帰るというシュールなシーンを生み出す。

エヴァンゲリオンも、「エヴァはケーブルが切れると3分しか動かない」「エヴァとシンクロできる子どもしかエヴァに乗ることはできない」といった弱点があるけど、ここはあんまりギャグにならない。
ケーブルを外して息を合わせて戦う「ユニゾン」のシーンをギャグと取る人もいるけど…アレぐらいかな?
本編中でギャグのつもりで描いているというよりは、見た人のツッコミで育っていくギャグがエヴァンゲリオンは多い。

アニメのギャグはマンガのギャグに比べると言葉よりもむしろ視聴者へ用意されたツッコミどころになる事が多いが、似ている要素が多い2つの作品はギャグに違いが出ていて、これがおもろい。

「じゃあ、ハガレンのギャグのシーンや一度使ったシーンをシリアスや次の戦闘で再利用する面白さを取り上げたらいいじゃないか!?」
と思うかもしれないけど…これは突き詰めていくと攻殻機動隊の面白さになるんだよなぁ。

攻殻機動隊とハガレンが多様にメディアミックスされる理由

攻殻機動隊は元々はマンガ原作だ。

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しかし、原作の攻殻の方が後で読むと…意外な事が多すぎて驚くと同時に、アニメ関係者があれこれ違う設定をあとづけしてもそれはそれで面白くなるからすごい!!
違う設定を付け加える時に、少佐こと草薙素子を自由人として描くか、警察官として描くか、軍人として描くかという違いになるのだが…どれで描いても攻殻機動隊は成立してしまうからすごい。

ハガレンも1期アニメは原作が足りなくて、アニメ終盤から劇場版はオリジナル要素の多い作品になっていたし、小説やゲームでもハガレンの設定を生かしたスピンオフ的な位置づけの作品は多い。

なんでこの2つの作品はオリジナル要素を入れてもそれなりに面白くなるかと言うと…世界観設計が緻密だからだ。
まず、両方の作品に共通しているのは作中の独自概念が多く、それらを使って膨らませやすい。
ハガレンなら、義手や義足を作る機械鎧技師のウィンリィにまつわる話が作中でもたくさん出てくるし、錬金術1つとっても国や民族で違うことをうまく作中に織り込んでる。国や民族の違いの話を戦争の傷跡や移民・宗教問題として主人公とはまた別の場所から色々と描くことが可能になってる。
攻殻機動隊なら、電脳化やサイボーグ化・義体化の話が多いけど、多脚戦車タチコマを使った話が多く、主人公でもなんでもない学習するロボットを軸にした話が色々出てくる。

作品独自の概念が多く、それらも設定が緻密だから、主人公一行とはまた違う部分の話がかなり描ける。

エルリック兄弟は自分と弟の体を取り戻す話だから…原作に描かれていない村や、エルリック兄弟の知らない錬金術を使う人の話を出すといくらでも話をふくらませることができるし、大きく崩れない原則も作中に多く出ている。

攻殻機動隊も未来のサイバーパンクの話で警察モノだから、話を付け足しやすい。
付け加える時に、元々の軍属の設定や、細かいサイバーパンクな要素、原作が出た89年〜00年代初頭にはなかった問題を攻殻機動隊に落とし込むと…原作にはないお話でも攻殻機動隊らしいスピンオフは作りやすい。

わかりやすいのは攻殻機動隊SSS。
89年やそこらなら高齢化問題は今ほど大きく取り上げられてないが…攻殻機動隊で孤独死や高齢化問題に相当する問題を扱っている。これが…未来視のようでかなり面白い。

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攻殻機動隊のギャグ要素は、この緻密な設定から出てくるものが多い。(特にタチコマ関連)
タチコマ自身が人間とは違う形で学習したり、戦車なのに介護ロボットになってみたり、人間と違って死の概念が乏しいから自分が悲惨な目に遭うときでもやたらと明るかったり…ギャグの描き方が細かい設定があるからこそ成り立つものが多い。

ハガレンもそうで、錬金術師達の弱点から来るものや、家筋から来る強引な性格・人格・時々職業がベースになっていたりと、ただの一発芸ではなく原作をキチッと読み込んでないと笑いがわからないシーンがちょくちょくある。

結果として「ギャグとシリアス両方が緻密な設定に裏付けられてるからそこでしか読めないもの・見られないものが作られててすごいよ」とハガレンを紹介すると、今度は攻殻機動隊を持ち出したほうが説明が楽!!というジレンマに陥る。

だから、ハガレンの話はあんまりしなくなる。

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じゃあ、ハガレンしか持ってない特徴ってなんですか?と言われると…細かいことになる

ハガレンの作者である「荒川弘」の家族は、北海道の酪農家だった。

大きいところならともかく、普通は家族が農業系だと子どもの頃から動物の世話や繁忙期の手伝い、農業学校への進学といった形で駆り出されるため、その時の体験も作品になっている。

荒川弘個人の体験は、百姓貴族を。

自身の体験をベースに描かれたフィクションは銀の匙をどうぞ

この体験はハガレンにも少なからず影響がある。
まず、ハガレンの終盤はブリッグズという北国の要塞での生活・雪国での戦いが多いのだが…北国の話になると設定がより緻密になって寒さを使って戦ったり、機械が寒さにやられたりといった設定からストーリーや戦い方を逆算して用いるシーンがとにかく増える。

重要なのはこの次。
細かい影響ではあるが、荒川弘作品は痩せてるキャラクターが極端に少なく、男女問わず筋肉質なキャラが多い
これも「食べさせてないみたいでかわいそうでしょ」とかおまけでは言ってたのだが…実際作者の趣味でもあるのだろう。
ところが、銀の匙まで読むと、農業学校や農家時代の体験が影響したものとも受け取れる上に、銀の匙でもやっぱり体つきがゴツめのキャラが多い。

むしろ、荒川弘作品全般が、平均的に筋肉質で、多大な被害をもたらしたり何を考えてるかよくわからないやつはガリガリであったり痩せこけてる人が多い。
顕著なのは銀の匙の八軒くんで、最初はガリガリだけど、農業学校の生活をしていくうちに筋肉をつけていく。筋肉をつけていくと生活に馴染んだこともあるけど、行動や発想も積極的になっていく事が増えていく。
ちなみに、マッチョややたらとイカツイ女は根はいいやつなのに怖いギャグ要員であるケースが多めで、デブはキレ者率が高い。

設定が緻密な作品は多い。
絵がうまい作品も多い。
しかし、自身の思想や趣味、ストーリーでの役割を濃密に入れて絵の力でマンガをわかりやすくおもしろくできる人はそうそういない。

この手法は、マンガ選びする時には大事な視点。
例えば、女の子しかかわいく描けない・描く気のないマンガはあまり面白くないことが多い。
本来は、マンガ家やイラストレーターになる人は女の子かわいく描きたい/描けるなんて当たり前のことなのに、そこが特徴という人は思慮が浅いか、力不足か…というケースは多い。
よっぽど上手い人が「カワイイ女の子を描く」の一点張りで突き抜ける人もいるけど、あくまで強者の戦略。そんなに人気でもなんでもないマンガ家・イラストレーターのこだわりポイントがこれしかないなら、そういう人の作品はあんまり深みがない。

デブもガリもマッチョもキチッと作中に描ける人は画力的なこともあるが、ストーリーやキャラを考える力が高い人だから、マンガとして面白くない作品の割合が減る。

悲しいけど、生身の人間はブサイクになる方が簡単。
絵ではブサイクや行き過ぎたマッチョを絵に落とし込むのは難しいから、それを徹底する人はすごいよ。

似たような問題として「背景までキチッと描くマンガは面白いものが多い」「手塚治虫は締切の関係で背景を描ききれなくて男泣きしたことがある」というのがある。
手塚治虫の話はブラックジャック誕生秘話からの引用だけど、この件に限らずこのマンガは本当にいい作品でマンガを読み方 や生き方を変えてくれる作品だから是非読んでほしい。

個人的な趣味ではあるが…、ぼくはこの観点から背景がほとんど写真そのままのトレースでろくなものがないヤマノススメはどんなにヒットしようが認めないし、面白くもなんともないというスタンスを取ってる。(しかも、それなりに続いても一向に写真やトレースであることを隠そうとしないスタンスだから尚更「あんまりうまくないマンガ家でかつ向上心もないんだろうなぁ」と個人的には思ってる。)

よかったら読んでみて。山関連のところびっくりするほど写真で、なにこれってなるから。

ただ…背景描いてないとか、写真そのまんまのトレースが多すぎて酷いとかこの観点ってアシスタントや作者の方針次第でいくらでも変えられることだから…よりいい作品を掘り当てようとすると当てにならない。

 

そこで、これの応用に当たるのが「作者の趣味や体験、作品の世界観をデザインに落とし込むだけのこだわりと技術があるか」というポイント
これは荒川弘さん以外の人もやってないこともないけど…一番有名どころでかつ露骨なのは荒川弘作品になる。
マンガ以外の有名所なら境界線上のホライゾンなどでおなじみの川上稔・さとやすコンビが割とこの要素があるのだが…コスチュームが人を選ぶ作りになっているし、どうしてこうなってるかまでぼくには説明できないのよねぇ。

この基準のいいところは、コミカライズを担当したマンガ家さんのスキルまで明確にわかるというところ。

最近はこの基準がすごく役立った例を2つあって…1つはホリエモン式飲食店経営というマンガ。


ノウハウ本のマンガとは思えないほど、女性の描き方に凝っていたり、聞き手であるリタイアした男性の作画が丁寧で絵を見て
「この人はできる」
と納得して紹介。
すると、1巻完結の作品で、作者自身のキャリアも少ないながら作品の評価はとても高くなっている。

2つ目は異世界薬局のコミカライズ。

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これも女性を描く時の凝り方がすごく、ギャグ要員になっている神父や敵役になっている平民ギルドのおじさんまで濃ゆく描けているから、マンガとして厚みがあってすごい。

しかも、原作のファンに聞くと、原作由来の面白さではなく、マンガ家の高野さんの努力で作中のライトノベル的な面白さ…元々医療マンガとして面白かったものを歴史や文化の側面までしっかり補強して面白くしたのはマンガ家の力。

細かいことだと思うでしょ?

だからこそ、ハガレンの話って難しい。
おそらくはマンガ以外でも、北国の生活に詳しい人、錬金術に詳しい人など各々の得意分野で読めば、きっと他作品にはないすごいところを色々見つけられると思うのだが…そういうところまで一般の人が読むかと言われると読まないからなぁ。

地味に高度なイシュヴァール関係の描写

ちなみに、祖母の戦争体験の話を聞いてイシュヴァールの話はかなり納得するものだと思った。
祖母は戦争を体験した世代だが、祖母の話を丁寧に聞いていくと戦争体験よりもむしろ実家での農業の話が大きく関連している。
それこそ、百姓貴族で描かれていることを祖母がそのまま言ってて「やっぱ荒川弘ってすごいわ!」と感動した。

 

同時に、戦争をやっていても戦後の貧困も地域による温度差はすごかったという。
祖母は戦後の東京に行ったことも住んだこともあるけど、それでも「東京が全部焼けちゃってみんなが貧しくなったせいで、戦後の数年は長野の方が進んでた」とか、「都会の人の戦争体験を聞くと酷かったらしいよ」言ってた。

この辺がハガレンでも投影されていて、作中にはエルリック兄弟が住む田舎町と、戦場と両方描かれていたり、イシュヴァールでの戦争を体験した人とそうでない人が出てくる。
戦争体験1つとっても戦地に行った人といってない人で温度差があるところを描いているのが、「よく聞き込んでマンガに落とし込んでいるんだなぁ」と感じた。

ダメな戦争マンガだとすぐ焼け野原や空襲を描こうとして、日本のドラマや邦画にはこの系の戦争描写が多い。

しかし、戦争のひもじさや、おかしな標語が流行り変わった人が排除される戦前戦中の生き辛さや、戦後の貧しさまで描いている戦争作品こそ体験者のものには多くその部分をしっかり入れてきている。
ふわっとしたイメージではなく、人にきちっと話を聞いたか本を読んだであろう描き方になっている。

ハガレンも戦争を扱った作品だが、戦場のことばかりではなく政治的民族的な問題ばかりではなく、田舎の風景や戦後の爪痕までキチッと描かれているから…色々見た人ならすごいと思うことや、戦争系のフィクションが苦手な人でも飲み込みやすく伝わるようなところに落とし込んでいる。

体験や取材、考え抜かれた世界観設定の積み重ねる能力が荒川弘はとにかく高い。
だから、体験や取材に基づいた作品や1から作った作品はだいたい面白くなる。
一方で、ハガレンしかやってなかったり、同じことをやっている作品の中で有名なものがハガレン…という部分が細かいところに集中するからハガレン語るのは難しい。

この6000文字、誰が読むんや…。
でも、真剣にハガレンの話するとこのぐらいの文字数になってまうんや…。
めっちゃ長くなったけど、読んでくれてありがとうな。


紙だと劣化しちゃうから電子書籍で書い直したい…。セール来ないかなぁ…。

 

 

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