すごく楽しみなマンガに出会えた。
タイトル見た途端に
「また釣りマンガ?もう飽きたよ」
「釣りってことはグルメもあるの?グルメマンガも溢れてるし…」
「随分と無難なところに逃げ込んだなぁ」
と思った人もいるだろう。
うん、ぼくも題材だけならありふれてると思う。
そこもすごい詳しいけど、このマンガ最大の魅力が釣りとかメシかと言われたらそうとも思わない。
じゃあ何が魅力か?というと、マンガに詰め込まれた情報量…ゆるい言い方をするなら「作品への愛情」だ。
情報量と言っても、うんちくのことじゃない。
ひと目見れば「カワセミさんだ!」とわかるキャラクターデザイン、
面白さのためならどんどん絵柄やタッチを変えてギャグにもシリアスにも行く柔軟な作画、
特に色っぽいシーンでなくても、作者が衣装やポーズをこだわっていくこだわりとそれを強調するコマ割り
マンガ家さんの力量や愛情を感じさせるシーンはとにかく多い。
最近流行ってるジャンルでマンガを描きながら
「この人のマンガだ」
と感じさせてくれる手の混んだ工夫の数々、それを味わってほしいと感じた。
あらすじ
主人公のカワセミさんは友達0の人見知り。
一応料理が得意なのだが…調理部のもんを叩けずにいた。
この人が、田舎ヤンキーと友達になる。
ヤンキーの強引な誘いが断れず、一緒に釣りに行くことに。
そして、調理になると…今までヤンキーにも釣りのもおっかなびっくりだったカワセミさんが豹変する。
こうやって、二人でコンビが結成されて一緒につるむようになっていく。
その都度その都度最適な絵柄で描いていくから画風がちょいちょい変わる。
でも、そこに作者のこだわりや遊び心、深い愛情が感じられる素晴らしい仕上がりとなっている。
カワセミさんの成長物語でもあり、天真爛漫なかわいさを楽しむマンガでもあり…
マンガ的表現がやりすぎなぐらいにおちゃらけてる作品だから
「これは釣りマンガ、料理マンガでもなんでもなく、実はギャグマンガでは?」
と思う人もいるかも知れない。
というのも、料理できる嬉しさを表現するカワセミさんが取るポーズがこれだから、それは無理もない。
うるさいぐらいに、小ネタが詰め込まれてて、何回読んでも新しい発見がある。
これが最初は
「マンガとして面白いからやってるんじゃないの?」
といううがった見方をしてしまったが、読み返すうちに
「人見知りの人って、内側に溜め込んでるものが多いからこそ、打ち解けるとうるさいぐらい表情豊かに生きてるから、これこそがカワセミさんの本当の姿かもしれない」
って思うようになった。
カワセミさんは回を重ねるごとに、表情が暗い方向だけでなく明るい方向にも増えていく。
これをマンガに落とし込む時には、ギャグとして最初は緩やかに匂わせる程度。
だから、マンガとして読む時に、最初は「おもしろいからそうしている」「作者がやりたい放題やってる」ように見えるんだけど…実はそうじゃない。
人見知りでぼっちなカワセミさんが自分のやりたいことをやりたいようにやって居場所を見つけていく姿を、より彼女らしく描いていった結果そうなるということだ。
そして、マンガを熟読した人には緩やかに変わっていくカワセミさんを描きつつも、彼女が明確に変化するシーンもキチッと1巻の中に盛り込んでる。
安心できる相手に、笑顔を振りまいてみたり…
人見知りの人にとって、他人をからかったり、満面の笑みを振りまくのは敷居が高い行動だから…これって彼女自身がすごくいい方向に変わっているシーンだよね。
友達できなくて悩んでる人が、一緒に過ごすうちに表情豊かになるってすごくカワイイし、お互いにとって嬉しいことだから、こういうシーンすごくキュンと来る。
これでもわかりにくいって人にはこんなシーンまで用意してる。
彼女は、釣りの中でも…エサ用の虫を見るだけでも苦手だったし、釣りも乗り気じゃなかった。
そんな彼女が、一人で釣りをすることになった時に、自分でエサを取るためにチャレンジをしてる。
段々と人見知り特有の【できなかったこと】が少しづつできるようになった後、1巻の終わりに持ってきた時に苦手なことにもチャレンジする彼女を見て
「ストーリーとしてすごいマンガだ!!」
とぼくは惚れ惚れした。
単に趣味をかわいい女の子がゆるふわにエンジョイするだけのマンガはたくさんある。
マンガ的に楽しませながら、ありふれているけど人としてとても大事な主人公の成長をも描いている話ってそうそうない。
マンガとしての専門性がすごい作品も、女の子がかわいく描けている作品もたくさんある。
でも、両方きちっとやって、それがよく読まないと気づかないほどナチュラルに描けている作品ってそうそうないんだ。
そこにマンガ家さんのキャラや作品への愛情なのかな…とぼくは思いました。
だから、これが釣りマンガの新しい定番…ここ数年色んなマンガで争ってた釣りマンガの決定版になってほしいなぁ…と感じている次第です。
ちなみに、このマンガは「プロのためのセカンドオピニオン」という企画で勝ち上がった作品だそうです。
他社でボツになった原稿を双葉社が復活させるというものなのですが…ほんといい仕事してくれました。
ジャンルとしてありふれてるだけに編集者がボツにするのもすごくわかる反面で、マンガ家の力量がいいから「企画云々よりもこの人にマンが描かせろよ!!」という気持ちもあるから…無事作品になってくれて嬉しいです。
双葉社マジありがとう。