少し前に、「農水省が一太郎を廃止する」という話が話題になった。
『一太郎』利用の農水省が『Word』に完全移行へ 「働き方改革の一環」報道にネットでツッコミ殺到
しかしながら、色んなところの話を聞いていると、官庁や一部民間企業では未だにマイクロソフトWordではなく、一太郎らしい。
官庁にも色々あるからすでに変えたところもある。だが、根強く一太郎使ってるところも多い。(マイクロソフトのWordどころか、グーグルのドキュメンタリー使ってる人も多いと思うけど。)
ぼくは89年生まれだから、Windowsと抱き合わせでワードとエクセルも勉強させられる年代しか生きてないので
「え!?一太郎なんて名前を見たのがもう15年ぶりのことじゃないか!?」
というぐらい昔のこと。
一太郎の性能がいいとか悪いとか以前に、今のアラサーでも知らないものが標準で使われている事自体にもうびっくりしている。
というのも…政府や公的機関は規模がでかい。
「そんなのわかってるよ」
と思うけど…ちゃんと数字ベースで把握してもらいたい。
こんなに多いぞ公務員、こんなにでかいぞ日本政府
公務員の数って、平成26年の資料で国家公務員が64万人、地方公務員が275万人。合計330万人以上。
そのうち農水省の定員は2万人程度。これは日本でトップ150ぐらいに従業員数の多い企業がそのぐらいで…具体的には阪急阪神ホールディングスや、東急がこのぐらいの規模感。
GDPの中で政府が占める金額は地方が56兆円、中央が22兆円、そこに社会保障関連を入れて合計117兆円。
これは平成24年のデータで日本のGDPが479兆円だから、だいたい24%は政府支出。
ちなみに、日本の民間企業で一番でかいのはトヨタ。
トヨタは連結で36万人の従業員がいて、売上が27兆。(2017年時点)
だから…携わってる人の数がトヨタの約10倍、動かしているお金がトヨタの5倍。
1つ1つの中央官庁が、誰でも名前が知っている大企業ぐらいには多くの人が働いていて、地方にも1万人以上の組織はちらほらある。(例えば、「県警」とか。)
これが日本の政府。
1つの機関が時代遅れなものを使っていると、そこから仕事をもらっている人も含めてすごい人数がその規格に合わせないといけないから、その影響力は大きい。
誤解のないように言っておくけど、
「こんなに公務員が多いなんて、税金を無駄遣いしてる」
って話ではない。むしろ、公務員の割合は世界の他の政府に比べて少ない中で激務をこなしている。
「トヨタみたいに効率化すべき」
というのも間違ってる。
国が税金を使ってやる(民間企業が営利目的でやるだけでは、回らない仕事)から、費用対効果が悪かったり、携わる人数がどうしても多くなるのは仕方ない。
ここで言いたいのは、そういう大きな組織がITについては20〜30年遅れた特殊な規格を使っているというところ。
優れているか劣ってるかは別としてガラパゴス化してる。
だからこそ、色んな大企業にお願いするよりも、各種公務員・政府こそが一番大きな組織なんだから行政が変わることが一番の近道なのよね…。(政府にも色々あるけど、それでも1つ1つの官庁が下手な大企業よりでかいし、総理大臣の下に紐付いている人間の量で考えたら、どんな企業よりもでかいのよね…。)
もちろん一太郎を使い続けている理由は色々あるよ?
「他のオフィスソフトに比べて細かい設定ができる」
「一太郎独自の、書式が多いから他のソフトに移行しづらい」
といった、いい理由も悪い理由もある。
それなら、学校教育でも一太郎使うなどして、一太郎に順応できる人材を維持していればいいのだが、教育の場ではワードやエクセルだからちぐはぐなのよね…。
産業界や世論を教育の現場では影響を受けながら、公務員では未だに一太郎なところがちらほら。
なんでこんな事になってたのか?
今のアラサー以下の人達はそこがそもそもわかってないから、歴史の話をする。
パソコン昔話(オフィスソフト編)
SNSで当たり前にされるインターネットの昔話は、mixiとかニコニコ動画が流行ってたぐらいの時代(00年代後半)の話が多い。
ブログ文化やテキストサイト、ITベンチャーに興味がある人でもWindows98ぐらいまでしかさかのぼらない。
でも、オフィスソフトの話はもっと古くて、80年代まで遡る。
インターネットに繋ぐ繋がない以前の問題として、一台100万円ぐらいでまだ業務用でしか買えない時代のお話。
そんな時期に、表計算ソフトの先駆けであるLotus123がうまれてシェアを広げる。
数字は世界共通言語だから、シェアを広げるのも、日本に輸入されるのも時間はかからなかった。エクセルはWindowsのパソコンと浸透することになるのだが…それまではLotus123がシェアを握っていた。
一方で、ワープロは…海外から大きなモノが来なかった。
来てたかもしれないけど、日本語ワードプロセッサーの世界は日本の企業同士で争われていた。
管理工学研究所という会社が作った「松」、ジャストシステムが作った「JS-WORD」という一太郎の前身的な日本語ワープロができて、その2つの戦いがスタートする。
最初は「松」の方が軽快に動くこともあり、松が優勢になる。
それを半額でかつMS-DOSベースで開発された一太郎がシェアを奪う形で一太郎が浸透した。
MS-DOSで動かなかった松は、対応する「松85」を発売するも…値段の差を埋めることができずに、一太郎と大きく溝を開けられることに。
この記事を書いてから知ったことだが、この時期のワープロは日本人が業務用向けに作ってることもあって、すごく使いやすかったそうな。
だからこそ、一太郎に慣れてしまった人は一太郎の方が使いやすいし、マイクロソフトその他のワープロソフトがシェアを持って、互換性に優れていても…一太郎に慣れてしまった人にとっては一太郎を使い続けるだけの理由があったようだ。
事実、アラフォー以降の人やガジェットオタクの人にこの手の話をすると昔のワープロ談義をすごい熱弁する人もいるほど…。
海外勢が来るのはマイクロソフトの91年。
と言っても、MS-DOS時代は一太郎が強かったので、マイクロソフトのワードが浸透するのはオフィスソフトも抱き合わせ販売するようになった98年。
しかも、Word98は評判が悪かったから一般的に支持を得始めたのはWord2000ぐらいから。
つまり、業務用で一太郎が根付いたあとにノコノコやってきて、個人用のシェアから徐々に取り返した形になってる。
一方で、業務用では一太郎が根付いてしまったし、一太郎使ってた年代の人が偉くなってしまったから、なかなか若い人が馴染んでいるワードへ移行できない時期が続いてたり、続いてるところがあるみたい。
日本語のワープロは難解過ぎる
「松」の時代まで含めるとマイクロソフトが日本語ワープロ市場を握るまで15年ぐらい時間がかかってる。
日本上陸だけでも10年近い遅れを取ってる。
なんでこんな事になったのか?
これは、日本語のワードプロセッサーが英語に比べると、複雑すぎるから海外だけで開発できず日本の企業に協力を仰いだ上で使いやすい一太郎や変換ソフトを越えないと勝負にならなかったからだ。
これまた歴史の話になるのだが…パソコンの…特にワープロ系のソフトの原型は「タイプライター」になる。(画像はWikipediaから)
英語だったら…タイプライターをそのまんまカーボン紙ではなく、ブラウン管とか液晶に反映されるようにすればいい。
ところが、日本語入力する場合は、「そのまま」という訳にはいかない。
だって、「和文タイプライター」の場合は、ひらがな・漢字・カタカナすべてを網羅しないといけないから。
漢字も常用漢字だけで2000字前後ある。(※1981年当時は1945文字だったが、今は2136文字。漢字の数も漢検1級まで入れると6000字あるそうな。)
ここにひらがな・カタカナ・アルファベット・数字を入れると…2000以上のボタンが必要になる。
物心がつく頃には家庭用パソコンがあった世代には信じがたいことだが…そんな嘘みたいなタイプライターが実在する。
実在すら疑わしいわけではなく、戦前〜昭和中期は本当に、嘘みたいなタイプライターが使われてた。
画像がその現物だが…あまりにも多くの字を網羅しないといけないため、打ち込むところがすごいことになってる。
もっと詳しく色んな和文タイプライターが見たい人はhttps://www.geocities.jp/kyo_oomiya/jpntype.htmlをどうぞ。
あまりにも多くの字を網羅してしまったため、パソコンとは似ても似つかない姿。
だから、英語みたいに「タイプライターをそのまんまパソコンの画面に落とし込んだらいい」という訳にはいかない。
加えて送り仮名であったり、縦書き横書きの書式であったり、行間や色んな場面での言い回しなど、日本語は複雑。
よって、変換の機能が必要だったり、その変換の内容が正しくないと使い物にならない。
だから、変換システムの方は…Wordが来るよりももっと遅い。
このこともあって、業務用では一太郎が浸透している時間が長くなった。
加えて、一太郎が持ってる値段の安さや使い勝手の良さが一太郎の根強いファンを作っていたため、Wordが浸透した後も一太郎のファンがいた。
しかも、Wordからワープロに入った人達よりも、歳をとって決定権を握ったから長らくWordよりも一太郎が使われ続けた。
ITに乗り遅れてるのは初物好きでものを大切にする日本人の美徳?
最後に、一太郎とWordの使い勝手やシェアの問題とは関係ない国民性の問題についても話しておきたい。
日本人は一度浸透してしまうと…それが個人用だろうと業務用だろうが変えない!はじめて使ったものに愛着と執着を持ってるから変えない!!年配者が若者に押し付けてでも変えない。
「個人用だろうが」と言ったのは、OSやWebブラウザまで含めて日本人だけ変えたがらないため。
例えば、Internet Explorerを20年使い続けているのは世界でも日本人ぐらいだし…。
Googleの方が使いやすいと言われても、長らくYahooを使い続けていたり…。
OSだって、サポートが切れるギリギリまでWindowsXPに固執していた。
だから、オフィスソフトもクラウドの時代になって、GoogleやAppleのものを使っても問題ない時代になってもWordや一太郎を使い続ける人がとにかく多くなっている。
【そのツールしかできないこと】を求めている人は別だが…深い愛着や使い勝手の良さだけで「選んでいる」わけではなく、「流されて」使い続けている人が相当数いる。
幸い、家庭用パソコンで浸透したのがWordやExcelだったから個人用は変わったけど…もし、10年前まで個人用のソフトが一太郎だったら、もしかしたら一太郎使い続けてたかもしれないし、他のオフィスソフトを使うのは邪道だという文化が根強く残っていたかもしれない。
エコとか伝統の世界とかだと、愛着のあるものを使い続けるのはものを大切にする美徳はわかんなくもない。
しかし、それをビジネスや会社単位でやると不効率になって、互換性の遅れや教育のコストがかかる選択をしてしまうこともある。
ましてや、この国で一番大きな組織が、独自の規格が多くて他のソフトに変換しにくいものを使っているとなると、
「人に働き方改革押しつけているけど、最も大きい組織は政府で公務員なのだから、この人達が最先端を行かないと時代遅れなモノにみんなが足並みをそろえる羽目になるんだよなぁ…」
と声を大にして言いたい。
一太郎はわかりやすい一例で…もっともっと色々ある。
学校の校則の時代遅れや教育であったり、なんでもかんでも紙媒体でやり取りさせようとしたり…30年前からあんまりアップデートできてないもの、新しいものがあることを前提に教えてないから企業や役所で二度手間になってることや、間違った常識が植え付けられていることっていっぱいあるんだよ。
政府…公務員が働く場所は自分たちが一番大きな組織で、周りがそれに合わせてることで時代遅れになっていくことの弊害をもっと真剣に考えたほうがいいと思う。
一太郎は氷山の一角。探せばもっとあるから、もっといろいろ告発されてほしい限りだよ。
誤解のないように言っておくけど、一太郎自体が悪いというわけじゃないよ。
用途さえ選べば一太郎も使い勝手いいし、一太郎使ったほうがいい仕事柄で一太郎使うことは否定しない。
ただ、オフィスソフトなんていくらでも無料で使える時代に高いお金払ってみんなで使ったり、使ったこと無いソフトに慣れるように色々しないといけない状態って相当いびつだと思うのよね…。